生きることは愛を欲すること









ゴロゴロ…キャリーケースを引きずりながら、マンションを出る。門を出て上を見ると、大きく聳え立つそのマンションにはたくさんの思い入れがある。





思い返せば親戚のおじさんのコネがなければここに住むことなんて出来なかったし、二人に出会うこともなかった。





本当にいろいろなことがあったけど、今ではそれが懐かしく感じる。たくさん笑って泣いて苦しんだその思い出は私の大きな力となっている。





マンションに一礼をして前に進むと、後ろから大声で名前を呼ばれた。





「かえで!どこに行くんだよ!」

「隆二に広臣…こんなところで何してんの!?バレちゃうよ!」

「久々に帰ってこれたと思ったら…旅行に行くの?」





まめに二人とは連絡を取っていたが、私がこの家を出るということはなんとなく言えずにいた。言うタイミングを逃してしまっていた。





「今まで本当にありがとう。私、強くなる!もっと成長して、もっといろんなことに挑戦したいの」

「それって…この家を出てくってこと?」

「ずっと黙っててごめんね。でもこれ以上はもう一緒に住めないし、迷惑かけたくないから…」

「俺らは迷惑なんて思ってないよ。ていうかどこに行くんだよ、仕事は?」

「昨日、やること全部やってから辞表出してきた」





責任を取って…とかではなくて、私自身もっと成長したいと思ったから。一から勉強をし直して、もっと知識を増やして、技術を磨いて、一回りも二回りも大きくなりたい。そう思ったから決めたこと。





「私ね、三代目のライブに行って決意したの。みんながあんなに頑張ってるんだから、私だって頑張らないとって思って」

「だからって…お前、勝手すぎだよ。あの家から出て行かなくたって…」

「隆二、かえでが決めたことだよ。背中押してあげよう?」





でも、強がり言っててもやっぱり寂しい。隆二が止めてくれたこと、すごく嬉しかった。またあの家で三人で暮らせるのかもって少しでも思わせてくれたから。





「寂しくなるから、一人で行こうって決めたのに…お見送りなんていらないよ」

「行く当てはあるの?」

「いや、正直ないんだけど…とりあえず東京を出て、就活するよ」

「かえでならどこでもやっていけると思うよ。俺らも頑張るからさ」

「ふん。どうせ一人じゃやっていけなくて泣きついてきても助けてやんねーからな」

「ご心配ありがとう。でも成長してからじゃないと絶対に帰ってこないからね!」





これ以上話していたら決意が揺らいでしまうので、私は前に進んだ。絶対に後ろは振り返らない。ただ前だけを向いて生きていくんだ。





長い長い一直線の道路は、この時だけは他の通行人はいなく、私たち三人だけだった。





「頑張れよー!!負けるな!!かえでなら絶対にできる!!」

「俺たちも頑張るから!!たまには連絡してきてよー!!」





足は止めない。絶対に振り返らない。だから返事の代わりに手を大きく掲げた。





涙でぼやけて前が見えないけれど、二人が見守っててくれるから前に進むことができるよ。





ありがとう。























________………





















季節は春。ひらひらと舞い落ちる花びらが、まるで私の帰りを待ちわびてくれていたかのようだ。





この一直線の道路にはあの時とは違って、たくさんの通行人が歩いている。





今まで見えなかった景色がここにある。ただ前だけ向いて歩いていたから、周りを見る余裕なんてあの頃の私にはなかったみたいだ。





第二の故郷、だなんて言っていいのかわからないけど、私にとっての帰る場所がここにはある。





だから何度だって、私はこの町に帰ってくるよ。あなたが私の居場所を守ってくれているから……





周りの建物よりもひと際目立つ、大きく聳え立つマンション。そこにはいつも私のことを応援してくれている愛おしい「家族」が待っていた。






「……おかえり。かえで」

「ふふふ、ただいま。やっと帰ってこれたよ」





ありがとう。あなたは私の大切な存在だから。もうあなたがいないとこの世界に私は生き続けることができないよ。











___ 世界が君を失わないように ___










私は何度だって、この場所に帰ってくるから。


















END



→あとがき


[ prev / next ]
[ back to top ]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -