太陽と月はまるであなたと私









自宅待機の3か月という期間を残すところあと一週間に迫った今日。郵便ポストにある差出人不明の一通の手紙が届いた。




「えっ!?これって……東京ドームのチケットじゃん…」




中には3日後に迫る最終日にあたる三代目の東京ドーム公演のチケットだった。手紙には「絶対に来てほしい」と一言書いてあり、きっとこれは隆二の字だろう。




慌てて広臣に電話をすると、すぐに出てくれた。




「もしもし?届いた?」

「届いたって…もうビックリした!私なんかが行ってもいいのかな…?」

「大丈夫だって!だってかえでの顔は誰も分かんないよ。だから、こっそり…ね?」

「うん…せっかくだし、行くけど…自宅待機だしなぁ…」

「それは大丈夫!社長さんにも許可得てるよ」

「ん?それ本当!?」

「もちろん!多分後で連絡が入ると思うよ。チケット2枚入ってるしょ?もう1枚は副社長さんのヤツだから」




副社長も同行という形なら良いとのことで、話は済んでいるようだった。そして数時間後に副社長からも連絡が入って行くことになった。




結局発売されているアルバムも聴けていない。二人の声を聞いてしまうと、寂しさが溢れて苦しくなるから…




そしてあっという間にその日がやってきた。外に出ると、毎日のようにいたマスコミもいなくなっていた。それでも一応裏口に迎えに来てもらった。




「あんなに毎日いたマスコミも、もういなくなってました」

「そりゃ世界中で毎日いろんな事件が起きてる。それに、聞いたか?ダブルミリオンだってよ」

「ダブルミリオン…?」

「三代目がアルバムに、観客動員数に、共にミリオン達成したんだと」

「すごい…知らなかった…」

「それに、毎公演必ずファンに頭下げて謝罪してるらしい。本当に彼等らしいよな」




私の知らないところでみんなが頑張っていた。だったら私も成長しないといけない。もっともっと、強い女にならないと…




会場に着いたときはもう既にオープニングが始まっているころだった。この席からは彼らの視線を追うことはできないが、スクリーンに映る度に同じ空間にいるんだと実感できた。




そしてMCになると、隆二と広臣が前に出てきて深くお辞儀をする。一気に会場が静寂に包まれた。




「この度は、皆様に多大なご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした」

「一部の報道に関しては事実とは全く異なるものもありますが、僕たちにとっては大切な家族ともいえる存在の方です」

「これからも変わらず応援していただければ幸いです。どうかよろしくお願いします」




私は彼らに何をしてあげられたのだろうか。何もしていない。ただ、ひょんなことから一緒に住むことになり、たくさん喧嘩もして迷惑もかけて、結局私たちの関係ってなんだろう。




そう思ったときに、二人は私のことを「家族ともいえる存在」と言ってくれた。知らない間に、私たちの間にはちゃんとした絆ができていたんだね。




食卓に三人集まれば、味が薄いだの量が少ないだの…隆二にはたくさん文句を言われ、数え切れないほど言い合いをしてきた。




広臣には仕事の悩みとか愚痴とかをたくさん聞いてもらった。ベランダでサボテンの話を時間も忘れて永遠にしてたのも懐かしい。




まるで二人は兄弟のような…家族のような存在になっていた。言葉は交わさなくても、気づいたらそうなっていた。




隆二のソロ曲の時、あの手紙を思い出す。あの時に読んだ歌詞で、初めてメロディーを聴いた。心が温かくなる。巨大なスクリーンに映し出された隆二の目からは、涙がこぼれていた。




私の心の中で、何かが燃えた。沸々と湧き上がる何かが…私の心をざわつかせる。私も前に進まないと…もっと頑張らないと…








__________________…………









「あ〜楽しかったな。ライブ」

「そうですね…」

「ん?どうかしたか?」

「副社長。私も頑張りたいって思いました。もっとたくさんの人に認められる存在になりたい。もっと努力したいって思いました」

「そうか。じゃぁ明後日から気持ちを切り替えて、良い商品開発に向かって努力してくれ!」






空を見上げれば、たくさんの星が瞬いている。同じ空の下なら、怖くなんかないよね。どこにいたって二人は私の心の支えだから。





そしてあの事件から三か月が過ぎ、久しぶりに会社にやってきた。製造部の部屋に入ると、社員が笑顔で出迎えてくれた。





「諸星さん!おかえりなさい!」

「ったく、初めから言ってくれればよかったのに〜羨ましい!」

「で、本当のところはお付き合いしてたんですか?」

「諸星さんがいないから、全然仕事進まなくて大変でしたよ〜」





いつもと変わらぬ仲間たちにホッとして、涙が出そうになったけどそこは我慢して、ちゃんとみんなに謝罪した。





「私の不注意で、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。そして、驚かせてばかりでごめんなさい」

「………まぁ!もう過ぎたことですから!これからも一緒に頑張りましょうね!チーフ!」

「いや、私もうチーフじゃないんだけどなぁ…」

「またすぐに戻れますよ!それに呼び慣れてるし〜」

「あ!そうだ!帰ってきて早々申し訳ないんですけど、聞きたいことがあって…」





世界は回り続ける。




もうあの時に戻りたいと思っても戻ることはできない。




もう、先に進むしかないのだ。






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