視線があるの、気付いて









体調もすっかり良くなって毎日がまた慌ただしくなる。特に隆二はよく部屋に引きこもるようになった。広臣に理由を聞いたら、どうやら曲を作っているみたいだ。





ご飯も最近は三人で食べることも増えた。もちろん隆二とは上手く話せないけど、正直とっても嬉しい。口数が少なくたって、確実にその距離は縮まっていると思うから。





二人で朝食を済ませ仕事に行く準備が整った時、インターホンが鳴る。広臣が出て、すぐに私の顔を見てきた。インターホンの画面を見るといつだか鉢合わせたあの女の人だった。





「げっ、またあの人!?」

「隆二呼んでくるから、急いで準備して。朝食の準備をしに来てて、もう帰るって設定にするから」

「分かった!」





すぐに歯を磨いて髪も整えて準備万端。隆二がノソノソと部屋から出てきて対応する。そして数分後、彼女がやってきた。





「ごめんなさい、突然お邪魔して…隆二くん、時間ある?」

「えぇ、少しならありますよ。臣、先に行ってて?諸星さんももう帰るだろ?」

「はい、私はこれで…また夕方きますので…」

「じゃ、僕も…失礼します」





小走りで彼女の前を通り過ぎたとき、思いきり睨まれた。というより、不敵な笑みに近いものだった。少し腹が立ったけどとりあえず無視をして部屋を出た。





「ねぇ、やっぱりあの人にバレてるんじゃない?めっちゃ睨まれたんだけど…怖っ」

「気にしすぎだよ。さ、遅れちゃうよ。気を付けてね」





そうそう。今日は開発中の化粧品の最終チェックという名の審査が入る大事な日。やっと努力が報われる日が来そうなのだ。





会社についてもろもろの準備を済ませ、私たちは結果を待つのみとなった。





「チーフ、こんな時にアレなんですけど…今夜のディナーショー行きます?」

「あ!忘れてた!いや〜それ私行かないとダメなやつよね。行く行く!」

「やっぱり色んな会社が集まるみたいなんで、ウチも行かないとだめですよね〜」

「でも!今夜のディナーショー、あの三代目が来るみたいですよ〜?」

「………ん!?」

「諸星さん、三代目好きって言ってたじゃないですか〜!良かったですね!」






そういえば、私がどんな仕事をしているのか言ったことなかった気がする。もちろん私もあの二人が毎日どんな仕事に行くのか知らないのでこうなることは当たり前だ。




まぁ、だからといって話すこともできないし、私はただのファンという装いをしないといけない。それもそれで少し難しいかも…




そんなことを考えていたら、社長がオフィスにやってきて大きく両腕を頭の上にあげて「○」を作った。




あとは製造方法の特許を取るのみだ。社員全員が安堵の表情で喜びを分かち合う。完成までもう少し…更に気合が入る。




そしてあっという間にディナーショーの時間。たくさんの化粧品会社の社員が多く集まっていた。私は違う意味でドキドキしていて、落ち着かなかった。





「あ〜料理も美味しいけど、早く三代目のパフォーマンスが見たい〜」

「てか、なんでここに三代目が来るわけ?意味わかんないんだけど…」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。タダで三代目が見れるんですよ?こんな幸せなことありませんって」

「そうですよ!あ…暗くなってきた〜」





会場内が暗くなり、イントロが流れる。初めて二人が生で歌っているところを見てとても胸がドキドキした。普段見ている二人とは全く違った眼差しで歌声に酔いしれていく感覚。





何曲か歌った後に挨拶があって、その後は一緒にディナーを楽しむんだそうな。二人に見つからないように上手く隠れないと…





「ごめん、私トイレ行ってくるね」

「え!?これから三代目とお話しできるんですよ?」

「ほら!隣のテーブル回りが終わったら私たちのところですよ?」

「いや〜お腹痛くって…また後で挨拶に行くからさ…私の分も挨拶よろしく〜」





私が突然現れたら二人はビックリして変な空気になるに違いない。ここはまたタイミングを伺うことにしよう。





盛り上がってる会場を出て、誰もいないロビーに向かう。ソファーに座って一息ついていたら後ろから聞き覚えのある声が私を呼んだ。





「やっぱり、あなたお手伝いさんなんかじゃないんですね〜」

「…あなたは」





私は息をのんだ。





鋭い眼差しが私を捉えて離さなかった。 






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