いつもその吐息を止めてしまう








二人で外食をして帰ってきた。家の中が真っ暗なので臣が鍵を開ける。中に入ろうとしたら、逆に鍵がかかってしまった。鍵の閉め忘れ?でも最後に出たのは俺らだったし、ちゃんと鍵をかけたのは覚えている。




きっとあいつが帰ってきて鍵を閉め忘れ、そのまま部屋にいるのかもしれない。ったく、危なすぎ。案の定、玄関にはあいつの靴がある。




喧嘩してからろくに話してないから少し気まずいが、一言文句言ってやろうと思い中に入るととんでもない光景が広がった。




「……っ!おい!かえで!大丈夫か!?」

「すごい熱だ。隆二、すぐにかえでの部屋に運んで。俺はすぐ体温計持ってくる」




ぐったりして倒れているかえでを抱きかかえ、部屋の中に入る。ルール違反だの言われても今回は緊急事態だから仕方がない。初めて部屋の中に入って、とても綺麗に整頓されていて驚いた。




「ったく、こいつちゃんと食べてんのか?軽すぎ」

「体温計持ってきたよ。かえで、起きれそうかな?」

「さぁ。一切起きる気配無いけどな…どうやって熱測るんだよ」

「……熱はいいか、絶対ありそうだしね。とりあえず保冷剤たくさん持ってきたから枕元に。あと薬だな…探してくるから起こしておいて」




とても苦しそうな顔で寝ているから、起こすのも少し申し訳なくなるが薬を飲んだ方が楽になるだろう。肩を揺らしてみると、とても体が熱くて相当な熱がありそうだ。




「かえで、大丈夫?薬飲めそう?」

「……ん、りゅうじ…?」

「帰ってきてびっくりしたよ。ぶっ倒れてるんだもん。今臣が薬持ってくるから」

「移しちゃうよ……」

「いいって。心配すんな」

「あっ起きた?かえで、大丈夫?薬あったよ。飲めそう?」

「ごめんね、ありがとう……」




薬を飲んで、またぐったりと枕に顔を埋めて眠りにつくかえでを見て、不思議な感覚になった。普段はどうも素直になれない。悪い奴じゃないってことくらいとっくに分かっているのに…どうして突っかかってしまうんだろう。




頭をポンと優しく触って部屋を出ようとした。すると、その腕を熱い手でグッと握られた。ドキッとして彼女を見ると、弱く小さな声で何かを言っていた。




「…かえで?」

「隆二…ごめん、ごめんね…」




なんで謝られているんだろう。謝らないといけないのはこっちなのに。まだこの間の喧嘩を引きずってんのかな。一気に自己嫌悪になる、素直になれない自分に……そしてかえではスヤスヤと眠ってしまった。




「かえで、寝た?」

「うん。苦しそうだけどな」

「そっか…でも俺は、隆二の方が苦しそうに見えるよ」

「えっ、俺が?」

「いい加減、素直になりなよ。かえで良い子だよ?もうルールとかそんなのいいじゃん。実際、こんな重複契約なんてあり得ないことだけど、何かの縁だと思わない?俺たち仲良くなれないの?」




臣の言葉は正しいと思う。そんなこと前から薄々気づいていたさ。でももっと知りたい、関わりたいと思えば思うほど、この意地っ張りな性格が邪魔をする。




「分かってるさ。でも、なんでだろう。かえでとはこれ以上深い関係になっちゃいけない気がして…」

「それは、好きになってしまうかもってこと?」

「今、一番大切な時期じゃん。そんな時に恋愛なんてしてる暇ないと思う」

「まぁ隆二が言いたいことも分かるよ。でもさ、そんなこと気にしてたら、かえではどこかにいっちゃうかもよ?」

「その時は……その時だよ」




ちょっと悔しいけど、君が俺たちのことを何も知らなくて良かった。だから、ありのままの素直な気持ちでぶつかれる。今市隆二という素の自分になれる、飾らなくていい、機嫌が悪い時は悪い、笑いたくない時も笑わなくていい、それが出来るのは唯一この家の中だけだから。




その唯一の場所にいるのが相方とかえで。もうすでに特別な存在なんだ。




だから、失いたくない。嫌われたくないし嫌いにもなりたくない。ずっとこの関係でいたい。




恋愛にはいつか終わりがきてしまうから……




我が儘だけど、ずっと俺の特別でいてほしいんだ。




ずっと、特別で………





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