大声で叫んでみて
久々のお休みを貰って家でゴロゴロしていたときに敬浩から一件のメールが届いた。「仕事が終わって暇だから今から家に行く」と…だから私は「部屋が汚いから無理」と返事をする。それから返事が来なかったので諦めたか…と思ったけど、数分後にインターホンが鳴った
「ちょっと、無理だって言ったでしょ」
「どうせ暇してたんだろ?部屋の掃除なら手伝ってやるって」
「もう…手伝わなくていいから。鍵、開けたから入っていいよ」
とりあえず敬浩が来るまでに、転がってる服やら鞄やらをクローゼットに閉まって、ある程度は綺麗にしておかないと本当に何言われるか分からない。部屋中を見回して飲みかけの缶ビールとつまみを隠して準備万端。そうこうしている内に敬浩が部屋に入ってきた
「なんだ全然綺麗じゃん。下着とか転がってるのかと思ってたけど」
「失礼な、ちょっと期待してたんでしょ」
「まさか。怜の下着見たって興奮なんかしないよ」
「一生見せるつもりないから!」
久々に会ってさっそくくだらない喧嘩。それでも笑いが込み上げてくるのは私たちの関係だからこそ。ソファーに座ってくつろぐ敬浩にコーヒーを出してゆっくりする。特に何も話すことはないけどテレビを見たり最近した仕事の話をしていた
「これ、さっき貰ったんだ。隆二とのウエディングドレスのカタログ」
「あぁ、事務所の人から?どうだった?似合ってたでしょ?」
「う〜ん、…全然」
きっと似合ってたよって言ってくれると思ってたからビックリして横を見たら、カタログを見ながら何か考えてる様子だった。深いため息をついて背もたれに寄しかかって、なんで俺じゃなかったんだろーなーって言い出した。最初は敬浩だったとは言えなくて、黙っていたら顔を覗き込んできて
「あぁ、勘違いすんなよ?ドレスはめっちゃ似合ってたよ」
「じゃぁ何?」
「俺との方が、絶対にもっといいの撮れたと思っただけ」
「……えっ、そ…そうかな?」
「何動揺してんだよ」
「べっ、別に!動揺なんかしてないわよ」
「ふーん…」
本当は動揺しまくりで心臓がドキドキしてる。気の利いたことも言えないし、変に強がったらまたからかわれると思う。敬浩がそうやって思ってくれたことは素直に嬉しいし、いつか一緒に仕事が出来たら…って思う
「俺らって全然一緒に仕事したことないよな」
「うん、そう言われてみればそうだよね」
「だからEX-LOUNGEにゲストで出ろよって何回も言ってるだろ?」
「そうだけど…」
「俺もいるし、将吉も隆二もいるし。全然大丈夫だって」
「私なんかが出たら、何も楽しくないと思うし…」
「仕事と人気は紙一重。たくさん仕事をやれば人気だって出てくる。まぁ今のお前にこれ以上人気はいらないと思うけど」
ここ最近、人見知りも改善されつつあるけど…バラエティーって、本当に出たことないから不安で仕方がない。何を話せばいいか分からないし、面白いことを言える気もしない
「普段かなり口悪いんだから、大丈夫だって」
「口が悪いって何?私のどこが口悪いっていうのよ」
「ほら、そうやって普段通りに話せばいいんだって。何を話そう…じゃなくて、聞かれたこととか思ったことを素直に口に出せばいいんだよ」
「うーん、私にできるかな?」
「きっとファンの人とか世間の人は大物女優、広瀬怜の素顔が見たいと思ってるはずだよ」
「そっか…なら、少し考えてみようかな?」
「期待しとくわ」
また一歩踏み出す勇気が出てきた。敬浩の言葉はまるで魔法のよう。それにどれだけ私が救われてきたか…出会えてよかった。救ってもらうばかりじゃなくて、私はその期待に答える番なんだね。頑張るから…
そしてプルルルル…と着信が鳴る。携帯を見るとマネージャーからだった。少し嫌な予感がしたけど、電話に出る
「もしもし?」
「もしもし?怜?ごめんね、休みの日なのに。今大丈夫?」
「うん、大丈夫だけど…どうしたの?」
「そうそう!主演のドラマが決まったの!その報告」
「え…久々にドラマの仕事か〜また忙しくなるね。分かった、明日また事務所でね。はーい」
最近はモデルの仕事ばかりだったけど、やっと本業の仕事が入ってきた。そして主演、期待に胸が膨らむ。良いこと続きでこの仕事も上手くやっていけそうな気がしてならない
「ドラマの仕事、入ったの?」
「うん!しかも主演なの。めっちゃ楽しみ」
「へぇ〜そうなんだ、頑張って」
「ありがとう。頑張るね」
じゃー俺帰るわ。そう言って、飲んだコーヒーカップを台所まで下げてくれた。そんな気遣いいらないのに…でもそこが敬浩の良いところ。今度はいつ会えるのかな。これから忙しくなるから、きっと会えなくなるんだろう
「体調には気を付けてね?喉も大切に、飲みすぎないこと」
「分かってるって。怜こそ、あんま無理しすぎないようにな。それとEX-LOUNGEの件も考えといてよ」
「分かってるって。じゃ、またね」
正直、もう心は決まっていた。一緒に仕事がしたいから、絶対に出るよ。そしてもっと一緒に仕事が出来ればいいな
それは、もちろん親友として…