節分も終わり時は刻々と春に近づくころとなった。梅の花もほころびはじめ、日も次第に長くなり、鶯も春の訪れを知らせてくれる。だけど、私は炬燵やストーブが手放すことが出来ずにいる。春の訪れを感じつつも、今も猫のように丸まり、炬燵に潜り込んでいるのだ。だがそれは、外の光景を見たら誰もがそれは仕方がない、と頷くだろう。だって外には雪だるまがいくつもできそうなくらい雪が積もっているのだから。そうなると、むしろ奴らがフライングなのではないかと疑問が湧いてくる。公式戦なら反則ものだ。サッカーならイエローカードだ。春はまだまだ先のような気がして少し憂鬱な面持ちで炬燵の中で丸々しかない。


「さむい。ちょーさむい。もう立春だよ。暦の上では春だよ。なのにこの寒さ。異常だ。奇怪現象だ」
「うるせえ。しかも奇怪現象ってなんだよ。こういうのは奇怪現象じゃなくて異状気象ってんだ」


六が私のぼやきに文句をつけながら床に落ちていたリモコンを拾いあげ、テレビの電源を付けようと赤いボタンを何度も押したが、一向に付く気配がない。主電源が切れているのだろう。ざまーみろ。心のなかだけで嘲っていると、六に炬燵の中で足を蹴られた。


「おい、テレビの電源をつけろ」
「おいなんて人ここにはいませーん」
「…いちテレビの電源をつけろ」
「やだよ。炬燵からでるなんて無理だよ」
「お前ずっと炬燵に入ってるだろ。豚になるぞ」


ああ、もう時すでに遅しか。といわれ、六の足に自分の足をぴったりとくっつけてやった。ひあ、だかうわ、だかよくわからない悲鳴をあげ、人の体温じゃねえ!と叫ばれた。なんて失礼なやつだ。世界中の冷え性に悩む女性たちに謝れ。是非ともひれ伏して謝れ。


「心頭滅却すれば火もまた涼し、だ」
「突然なに?なに語?」
「どんなに寒かろうが全ては気持ち次第なんだよ。気持ちがあれば冬にタンクトップでも大丈夫なんだよ」
「なにそれ?小島よしおの精神論?海パンだけで生きていけるみたいな」
「いいから外いくぞ」
「ええー!ちょ、無理無理無理!引っ張るなばか!」


このなんちゃって侍、何を血迷ったか外にいこうと言い出した。こんなに寒いのに外だと?お前、正気か?大体テレビはどうしたテレビはあ!しんとうめきゃべつ?よく覚えてもないけど、さっきの格言みたいなのだって意味はわかんないけど、熱血先生とかが言ってそうな感じだったじゃん。これだから金八世代はあああ!体張ればいいってもんじゃないの!現代っこに金八論が通らないってなぜわからないんだこの男。現代っこに熱血は必要ないんだよ。少なくとも私は炬燵とケータイと苺大福があれば生きていけるもん!


「わけわかんないこといってないで行くぞ」
「無理だって!いくなら1人でいけって!」
「あのな、いち。確かに俺は金八世代だが、金八派じゃねえ」
「は?」
「ヤンクミ派だ!」
「知るかぼけえええ!」


私もごくせんは好きだよばか!




ノンストップ、スプリング

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テーマ「人外ファンタジー」
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