名前っているのかなあ。夕飯を摂りながらポツリと呟けば伊賀崎くんは光のような速さで反応を示してみせた。そして彼はとんでもないことを言い出した。
「純子さんが決めてください」
何かの冗談かと思ったが、伊賀崎くんは真剣だ。この猫を私に託すつもりなのか。生憎だが私は生まれてこの方、生き物に名前をつけたことがない。小学校で飼っていた兎に子どもが生まれた時だって、皆が名前を討論する中、私はただ机に頬杖をついて眺めているだけだった。そんな私に名前をつけろというのか。
「た」
「?」
「たま、とか…」
伊賀崎くんからの冷めた視線が痛い。
「純子さん、もっと真剣に考えてください。この子が一生背負う名前です」
一生。伊賀崎くんの言葉は重く私にのしかかる。にゃーと一声あげる無垢な子猫。なきたいのはこっちだ。ばか。