図鑑を渡すと伊賀崎くんは最初は驚いていたけれど、手にとり目を細めて、愛おしそうに図鑑の題名を指でなぞった。ありがとう、ございます。少し笑っていった伊賀崎くんに私はくすぐったく思った。


「そんなに面白い?」

「虫は綺麗なんです」

「きれい」

「はい。人間なんかよりずっと」


人間なんか。なんか、より。伊賀崎くんはそういったけど、それは私にではなくて、他の誰かに呟くみたいだった。


「ねえ、伊賀崎くん」

「はい」

「山。山に行こうよ」

「山?」

「そう、山。虫がいて、きっときれいだよ」


この時、やっと伊賀崎くんは図鑑から目を離して私を見た。そうして何がおかしいのか、ふふっと笑う。


「そうですね。きっと綺麗です」
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