「なるほどー。寝て起きたらホウエンにいたと」
「はい」
「そしてボク達に連絡もせず、だらだらと5日も過ごしたと」
「…はい」
「5日も過ごしたと」
「……仰る通りで」
「はあ」
「厚かましいですけど、く、クビとか…!クビはやめ、」
「しませんよ。ボクにそんな権限ありませんし。それよりいい加減でてきたらどーですかー」


今僕は激しい上司と部下の攻防の間にいる。といっても部下は防戦しかしてないけど。その部下であるエニグマは僕を盾にどうにか耐えているといったところだ。エニグマの上司はどうにもエニグマが僕を盾にしていること(というよりくっついている事)が気に食わないみたいで尚更機嫌が悪くなる。なんとも分かりやすい子だ。僕はというと、まあここは大人の余裕ってやつでスマイル0円で対応中である。
そんなエニグマの上司は僕の予想とは遥かに違う人だった。エニグマの言っていた緑色というのは納得だが、何より予想以上に若い。フロンティアのファクトリーヘッドを担うには若いのではないかと感じるくらいに。ホウエンのファクトリーヘッドはいい歳したおじさんだというのに。すごい違いだ。


「知らない人には着いていくなって田中くんにあれほど言われてたでしょー」
「い、言われてましたけど…!」
「はいはい、2人ともその辺しときなよ」
「貴方には関係ないと思いますけど」
「工場長ー!ダイゴさんは私の命の恩人ですよ」


完全に敵意むき出しだ。しかもエニグマが僕をフォローするものだからより拗れる。なんて悪循環。こんなところで喧嘩されても困るのだけれど。


「だいたい、なんでよりにもよってこの人なんです」
「え、工場長、ダイゴさん知ってるんですか」
「フツーの人は知ってるでしょう。エニグマくらいじゃないですか」
「ひ、ひどい!ダイゴさんあんなこと言ってますよ」
「うーん。彼のいうこともあながち間違いじゃないから」
「えーダイゴさん有名人なんですか!」
「はあー。デポンコーポレーションの御曹司で元ホウエンリーグチャンピオン。知らない人のほうが珍しいでしょー」


えええー!ダイゴさんおぼっちゃんでチャンピオンなんですか?!エニグマがすごい声をあげる。石大好きなのに?石のことしか考えてないのに?ってこの子も案外失礼だな。僕だって石以外にも考えてることはたくさんある。ただ、エニグマとの出会いがあんなだったから。あの時は石のことしか考えないのは普通じゃないか。


「エニグマ。帰りますよ」
「え!帰るんですか!」
「なんのためにボクが来たと思ってるのー」
「てゆうかどうやって」
「レンタルポケモンってこういう時便利だよね」


そう言って彼が持っていたボールからでてきたのはサーナイトだった。なるほど。テレポートか。それにサーナイトはホウエンのポケモンだからこんな遠くまで間違いなく来れたのも頷ける。


「みんな待ってるんですよ。メイもピロシキも田中くんも。フロンティアのみんながエニグマのこと待ってるんです」
「…みんなが……」


エニグマは上司を一回みて、僕を見上げる。僕としては嬉しいことだが、この子は僕のことを気にしているらしい。そんなエニグマの肩を掴んで上司の前へと押し出す。ダイゴさん。エニグマが呼んだ。ああもうこの子は。ホントおかしな子なんだから。普通は喜ぶことなんだよ。


「行きなよ」
「……」
「待ってる人がいるんだろう」
「…あの、ダイゴさん」
「なんだい?」
「私、ダイゴさんに言いたいことがあるんです。会ったあの日から思ってたことなんです。聞いてもらえますか?」
「いいけど、」


え、ちょっと待って。言いたいことがある?会ったあの日から?何これ何フラグ?ちょぉーと待とうかー。何だい、この流れは。待って待って。とりあえず僕は君の上司の視線が痛いですチクチクと。まあその辺も大人の余裕ってやつでスルーだけどね。大人は汚い?ははっ。そんなこと百も承知さ。


「私、ダイゴさんのこと」
「(ちょ、ホントに?!)」
「ダイゴさんのこと、石マニアじゃなくて石オタクだと思うんです!」



(ですよねー)

091014

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