廊下で偶然すれ違った少女に見覚えがある気がした。登校したときと部活にいくときにいつも花壇に水をあげている少女だと気付いたときにはなぜだか名も知らない少女のことが気になる対象となっていた。授業中、外で女子が体育をしていれば、ぼんやりと外を眺めるのを装って少女をさがしているし、偶然すれ違った廊下でまた少女とすれ違わないかとどこかで期待している。だけど少女と出会うことはなかった。少女の姿を確認できるのはあの花壇だけで、他の場所で見ることはない。こっちはクラスどころか名前さえ知らない少女のために、このままではいろんなことに支障がでるのではないかとハラハラしているというのに。
放課後、やはり少女は水をあげていた。その花壇には少女によく似合うスイセンが優しく揺れている。話し掛けよう、と少女に近づけばちょっと違和感を感じた。ホースを片手に立つ少女。よくよく見れば、ホースから流れる水の行き先はスイセンではなかった。蟻の巣。気付けば俺は普通に部活に参加していて、少女と未だ関わるまでには至っていない。


「間違いなくその子はSだね」
「S?」
「サディストだよ。加虐性欲者」
「蟻いたぶって楽しんでるってこと?」
「間違いないでしょ。楽しむ以外で蟻の巣水攻めなんかしないよ」


日本語はずずっとわざとらしい音を立ててのむヨーグルトを一口のんで、そういえば、と口を開いた。スイセンは毒があるのだと。日本語にしてはよく知っているなあと思ったけれど、そのスイセンの毒でおじいさんが死にかけたことがあるらしい。笑い事じゃない。


「で」
「で?」
「どうすれば思う?」
「なにが?」
「だから、その子が気になるって話。でもあんなシーン見たらなんだか気まずいし」
「えっ?これ恋ばな的な話だったの?」
「…なんだと思ってたの」
「幸村がMに目覚めた云々の話だとばかり」


こいつに話した俺が悪いんだと思う。多分俺が悪い。そう思うけど、なんだかすっとしないからパックに刺さるストローを中に押し込んでやった。



花摘み/110913

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