わたしが彼の腕に縋るように自分の腕をからみつけたら彼は困ったような笑みをみせた。子供の癇癪に対するような表情がわたしをさらに腹立たせる。彼はいつもそうだった。物分かりがよくて、根っからのいい奴。周りにはそう思われていたけれど、わたしは彼が頼まれ事を断るのが下手だってことを知っている。笑ってなんにでもうなずく。だからこそ、いつまでもわたしを甘やかし続けたのは彼だったのに。今回はどれだけわたしが頼んでも喚いても彼は曖昧に笑うだけで、うなずいてはくれない。
グラウンドはやけに静まり返っていた。少し前までは鬼道や佐久間やみんながいて、うるさいと思えるほど賑やかだったここはいつの間にかしゃべり声さえ聞こえないくらい、人が減ってしまっていたらしい。


「しゃべり子、俺、いかなきゃ」
「どうして?サッカーなんて雷門じゃなくてもできるでしょ?今まで通り、ここでもできるでしょ?」
「しゃべり子…」
「そうやって源田も、鬼道や佐久間たちみたいにいっちゃうの?」
「…呼ばれたんだ。もう手続きだってできてる」


いやいや。彼がいってしまわないように腕に力をいれて、繋ぎとめたくて、けどこんな簡素な鎖はすぐに切れてしまうことがわかってしまったから、わたしはとうとう泣きだしてしまった。彼は子供をあやすみたいに背中をポンポン叩いてくれたけれど、やっぱり笑うだけ。「俺、雷門にスカウトされたから」そう言ったときの源田も確か笑っていた。どうして笑っていられるのか。わたしには理解できない。理解したくもない。


「1番じゃない源田なんて、いやだ」


源田ははじめて顔を歪めた。ひっどい顔。それが彼の本心なら行かなければいいのに。けど彼は行ってしまうんだろうね。物分かりがよくて、根っからのいい奴らしいから。残念ながらわたしは、物分かりはよくないし、いい奴でもないから笑って「いってらっしゃい」なんて、絶対言ってあげない。




舞台裏/110212
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ゲームの引き抜き機能は現実で考えるとかなりシビア

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