「俺、メリーゴーランド好きなんだよね」


そう言って基山くんはストローを口に含んだ。わたしはぼうっとテーブルの上にある2つのトレーと、その上にあるハンバーガーを見つめながらどうしてこうなったのか少しだけ考える。基山くんとわたしは決して一緒に遊んだりする仲ではない。てゆうか同じクラスにさえなったことがない。面識さえあったかどうか。それなのに基山くんとわたしは同じファストフード店で同じテーブルを囲んでいる。それが問題だった。原因はいろいろ考えてみたけど、緑川にあるんじゃないかと思う。少なくともわたしがここにいるのは緑川のせいだった。緑川は同じクラスで割と仲良くしてる男子で、今朝彼からちょっときて!ってゆうメールでわたしはここに来た。なのにアイツときたら。いきなり緑川からの電話をとってみれば、今日は行けなくなっただの砂木沼さんがどうしたこうしただの。誰だ砂木沼って。ともかくその電話によってここに着いた早々用事がなくなってしまったわけだけど、何もせずに帰るのもアレだからハンバーガーでも食べようとしたところで何の接点もない基山くんに出会ったのだった。ちゃんちゃん。…と終わってくれたらよかったのになぜか一緒にハンバーガーを食べるはめになって今に至る。初対面に近い基山くんと何を話せばいいのかなんてわからなくて口数の少ないわたし。それに対して基山くんは滑舌だ。学校のこと、学校の近くのクレープ屋さんのこと、サッカーのこと、政治のこと、英語の小テストのこと、最近あまりよろしくない天気のこと、木星について、昨日のドラマのこと、おいしい鍋の作り方。エトセトラ。よくしゃべる男。それが彼に対する第一印象になるのだろうか。今の話題は遊園地についてだった。


「メリーゴーランドってね、きらきらしててそこだけ別の世界みたいじゃない。ずっと回っていればいいのになって思う」
「ふーん」
「日本語さんは好き?」
「えっ?」
「メリーゴーランド」
「んー…、遊園地が、きらい」
「へえ。女の子って好きそうなのに。パレードとか」
「それ偏見」


じゃあ、何が好き?基山くんは女の子顔負けのきれいな顔と髪をゆらしながら首をかしげていう。何が好き。わたしの好きなもの。どうしてかすぐには浮かばなかった。何が好きなんだろう。数学も社会も英語も好きじゃない。8年前から続けているピアノも好きなわけではない。昔好きで聴いてたアーティストの曲だって今となっては何年も聴いていなかったことに今気づいてしまった。何も言わないわたしに基山くんは微笑んで日本語さんこの後なにかある?暇なら映画にでもいかない?と言った。突拍子もないことだったけれど、わたしは無言で頷くことしかできなかった。


2時間近くの映画も内容が頭に入ってこなかった。おもしろかったのかかなしかったのか、全く分からない。内容は分からなかったけど映画を見ている間ある疑問が浮上してきた。どうして基山くんが一緒にいるのか、ということだ。最初は緑川のせいにしたけど、それとこれとはまた別の問題じゃないか。それと同じくらい不思議に思ったこともある。基山くんがわたしの存在を知っていて、尚且つ名前を知ってるとゆうこと。去年も今年もクラスは違うし、緑川と基山くんが仲が良いのは聞いてはいたけど、だからといってわたしと基山くんは何も関係がないのだ。なあんにも。近くて友達の友達程度だった。なのに、どうして隣にいるのだろうか。意を決して尋ねると基山くんはきれいな緑色の瞳をぱちくりさせて、変なことを聞くんだねといった。


「君だって俺のこと知ってるのに」
「だって、基山くんは有名だもの」
「有名、ね」
「有名、だよ」
「…ねえ、日本語さん。今度会うときまでに日本語さんの好きなもの考えておいてよ」


今度はわたしが目をぱちくりさせる番だった。そんなわたしを気にすることなく基山くんはしゃべる、しゃべる「まずは5つくらいでいいよ。あっ、好きなものって言ったけど好きなことでも何でもいいんだ。少しずつ、俺に教えてくれたらいいから。うーん。そうだなあ。日本語さんだけってゆうのは不公平だから俺もとりあえず5つ、好きなもの教えるよ。まずね、サッカー。昔っからこれだけはね、すごく好きなんだあ。それとチームメイト。彼らがいなかったらサッカーができないし、一緒にサッカーしてると楽しいからね。それと、天体観測。その辺の人より星には詳しいかな。おっきい望遠鏡も持ってるよ。結構本格的でしょ。あと、甘いものも好きかな。ケーキとか、アイスとかね。あと、あとね、日本語さんの笑った顔もサッカーくらい好き、かなあ」


「真っ赤な顔もかわいくて好きだけどね」


リンゴみたい、とクスクス笑いながら基山くんが少し触れた頬がすごく熱かった。このときわたしは一体どんな顔をしていたんだろう。




イチゴジャムの惑星/100927

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