源田くんはわたしの右隣の席の男の子です。本名は源田幸次郎くんといって、帝国学園サッカー部のレギュラーでキーパーをしています。周りからは源王と呼ばれているそうです。背が周りの男の子より大きくてみんなと同じ大きさのはずの机が源田くんの机だけなんだか小さく見えます。背比べでわたしが背伸びをしても頭が並ぶことはありません。源田くんは背だけじゃなくて、手も大きいです。「源田くんの手はおっきいね」というと「日本語の手は小さくてかわいいな」といってわたしの右手と源田くんの左手をくっつけました。わたしがいっぱいいっぱい手を広げても追いつくことはやっぱりありません。源田くんはキーパーをしているから、大きい方がいいのだといいました。どうやったら源田くんみたいに大きくなれるのでしょうか。源田くんに聞いてみれば少しだけ悩んで、「好き嫌いしないでいっぱいご飯を食べるんだ」といいます。「わたしも今日からニンジンもピーマンもちゃんと食べたら大きくなれる?」そう聞くと源田くんは笑って頭を撫でてくれました。この時、今日からニンジンもピーマンもちゃんと食べると心に誓いました。
源田くんはサッカーも上手だけど、勉強だって出来ます。数学はスラスラ解いていくし、英語だって当てられてもうろたえることなく、ながいながーい文章を詰まらずに読んでいきます。この間、国語の時間に源田くんと読み合いっこしていたときに、分からない漢字があって困っていると、源田くんがそれはゆゆしいって読むんだと教えてくれました。あまりよろしくないときに使う言葉らしく、由々しき事態だとか、そうゆう風に使われるのだといいます。ゆゆしい。由々しい。源田くんが横にいるだけで、いつもよりちょっとだけわたしの頭がよくなっていく気がするのです。それを源田くんにいえば、やっぱり笑って頭を撫でてくれるのでした。源田くんに撫でられるととても幸せな気持ちになります。源田くんのお父さんとお母さんはきっと源田くんが人を幸せにできる子だと分かってて幸次郎って名前をつけたんだと思います。



そんな幸せを噛みしめつつ数日経ったある日、掃除の時間が終わって帰りの準備をしていると、一枚の紙が回ってきたました。そこにはあみだくじが書かれていて、それを見てすぐにピンときました。席替えです。席替えとゆうことは源田くんの隣ではなくなってしまうとゆうことです。まさに由々しき事態です。今まで幸せだった気持ちがズドーンと深あい穴に落ちちゃったみたいに沈んでしまいました。委員長の子が明日席替えるからねといいます。帰り道でも家に帰っても気分は晴れませんでした。その日の夕飯は源田くんにいっぱい食べて大きくなるんだと教えてもらってからちゃんと食べていたニンジンもピーマンも、大好きなエビフライだって食べる気になりませんでした。次の日気分はブルーのまま学校に行くと黒板に席替えの結果が張り出されていて人だかりができています。その人だかりの中にいた友達のえっちゃんがわたしに気づいて近づいてきました。「しゃべり子の席あそこの窓際だったよ。やったじゃん一番後ろ」確かにいい席だけど、全く嬉しくありません。そうこうしているうちに机の大移動が始まりました。ガタン。ガタタン。と大きな音をたててえっちゃんが言っていた窓際に移動すれば、前には辺見くんがいて「日本語じゃん」といつもの調子で茶化してきたけど、わたしのテンションは上がらなくて、そんなわたしを見て辺見くんは少しだけ心配そうな顔をしました。辺見くんはなんだかんだいい人です。辺見くんとおはなししているとガタガタと隣の人が移動してきました。隣の人はふわふわの茶髪を揺らして、わたしの大好きな笑顔で「また隣だな」と言って頭を撫でてくれます。そしてわたしはさっきまでの憂鬱な気分が嘘みたいにいっきに幸せになるのでした。




ふわふわりんり/100915
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