あの手紙は帰国して数日たった今でもちゃんと保管している。人生初めての海外で人生初めてのラブレターをもらってそれが人生初めての告白だったわけだけど、帰国しちゃったら返事もなにもできるわけではない。それが良かったのか悪かったのかよく分からない。手紙には宛名も何も書いておらずただ愛の言葉しかなかった。これが果たして本当に私宛てだったのか。ディランくんからなのか。定かではない。とりあえず私は残り少ない貴重な夏休みをぐうたら過ごしていた。


「しゃべり子ー、散歩いってきてー」


母の一声で外でわんわんと激しく吠える声が響いていることに気付いた。えーっと文句をゆうと母からアンタ暇でしょなどどうにも的を射ている言葉が飛んでくる。これ以上何かをいわれる前にめんどくさいなあと思いながら重い腰をあげた。平凡な町並みをふらふら歩く。アメリカと比べたらちっぽけだなあと思わずにはいられなかった。だけど、この素朴な感じも嫌いではない。私の生まれ育った町だ。歩いていくと広場でサッカーをしてる小学生を見つけた。あの子たちもディランくんたちみたいにサッカーに夢を馳せているのだろうか。しゃべり子!ぼうっと小学生を眺めていると名前を呼ばれた気がした。「しゃべり子!」確かに呼ばれている。見渡せばくすんだブロンドが目に入る。相変わらずメガネだかゴーグルだかよく分からないものをつけて走りこんできたかと思うと、いきなり私に抱きついてきた。「しゃべり子!会いたかった!」えっ?えっ?ちょ、なんで、え?日本語?






「本当はしゃべり子といっぱいしゃべりたかったんだけどマミーもダディもそれじゃしゃべり子が来る意味がないからって我慢してたんだ!」


なんとゆうノンブレス。ダメだ。ついていけない。えっ何?ディランくんは日本語がペラペラだった、だと?何ですかそれ。なんなんですかそれ。マークも日本語しゃべれるんだよってへえーそーなんだー。ダメだ。全くついていけない。粗茶ですが、と笑顔で普通にお茶を出してきた我が母親にもついていけない。今日はなに用で日本までと聞けば「よそよそしいなあ。ミーとしゃべり子の仲なんだから!」と言われた。ディランくんと私が一体どんな仲になったのかよくわからないが、私に会いにきたことは確からしい。


「今度はミーがしゃべり子の家にホームステイに来たんだよ!」
「あ、アポもなしに…!」
「ってゆうのは半分ジョークで。返事を聞きにきたんだ」
「えっ」
「ミーからの手紙読んだでしょ」


あの手紙はまさしくディランくんから私宛てだったらしい。そう考えると顔に熱が集中した。ディランくんは真っ赤だねと微笑みながら私の頬に右手を添える。そして打って変わって真剣な声で好きだよと囁くのだ。さらに熱が上がる。そんな私の反応をみてにんまり笑った。


「しゃべり子には英語を覚えてもらわないと」
「え」
「じゃないと将来ミーと一緒にアメリカで暮らせないからね」


そう言って私に軽く唇を押し当てたディランくんにあらあらと微笑んでるお母さん。私は母とは対極的に声にならない声をあげた。



外枠からこんにちは/100910

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テーマ「人外ファンタジー」
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