「しゃべり子!しゃべり子!」


誰かが私の名前をしつこく呼ぶものだから何事かと思って瞼を上げるとそこには満面の笑みを振りまくディランくんがいた。アメリカにホームステイにきて早一週間。ディランくんが私を起こしにくることは日課になっていた。最初こそ驚いたものの慣れてしまえばそうでもない。私が起きたことを確認してディランくんは決まって「オハヨウ」と片言で挨拶をくれる。彼なりに気を遣ってくれているんだろうなあ。それに「おはよう」と返すのが私の朝一番の仕事だ。
ダイニングにいけばママさんもパパさんも待機していて2人に挨拶をした。テーブルにはママさんお手製の朝食が用意されている。アメリカの食べ物はおいしくないんだってね、とここに来る前友人と話していたけれど、確かにお菓子の色が奇抜だったりLサイズがLサイズじゃなかったり驚くことはたくさんあった。だけど特別不味いってことはない。私個人の感想だけど。少なくともママさんの料理はおいしいと思う。うちのお母さんよりおいしいんじゃないだろうか。本人にいったら怒られるから絶対言わない。ママさんとディランくんが滑舌よく会話をしているのを眺めながらゆるゆるとパンやベーコンを口に詰めては噛むことを繰り返す。キース家族は皆滑舌がいいのかスラスラしゃべる。お陰様で何を言っているのか8割以上理解できない。これは私の40人中40位にも比例してることなんだけど。この一週間の教訓はジェスチャーって大事。これに尽きる。とろとろと朝食を摂っている私の横でパパさんは立ち上がって玄関に向かった。お仕事だ。ママさんも玄関にいき、パパさんに軽く口付ける。所謂いってらっしゃいのチューである。これもお約束だ。こんなことフツーにやってのけちゃうアメリカって奥が深いね。モゴモゴ口の中のものを噛んでいるとディランくんがいきなり立ち上がって片方は自分のスポーツバック、もう片方は私の腕を掴んだ。何かしゃべっているけど全く聞き取れない。辛うじて聞き取れたのはLet's go!だけだった。えっ、どこに?ぐいぐいと引っ張るディランくんの力には勝てずに引き摺られる形で玄関をでた。そんな私たちをママさんは笑顔で見送ってくれた。





「Hi Mark!」


ディランくんが呼んだ相手、マークくんはこちらに気付くとすぐに近づいてきた。ディランくんと同じジャージを着ている。とゆうことはあれか。サッカーのチームメイトとゆうやつなのだろうか。クラスの某男子がいうにはディランくんは有名らしいし。ディランくんが相変わらず達者な英語でマークくんに何かを言っている。するとマークくんがこっちを向いてNice to meet youというので私も挨拶を返した。暫く3人で話ながら歩く。マークくんはゆっくりしゃべってくれたけど思ったより理解できない。40人中40位は伊達じゃないとゆうことだ。暫くいくと人工芝で覆われたグラウンドについた。中にはディランくんたちと同じジャージを身につけた人たちがいて彼らもチームメイトなのだろう。ここでようやく私の今日の予定が見えてきた。


「Let's do together!」


ディランくんは私の手をとり、誘ってくれたけれどサッカーなんてやったことないし、一緒にってディランくんたちとってことでしょ。平凡な日本の高校生でさえ憧れるディランくんとサッカーなんてとてもじゃないけど私にはできそうもない。見てるだけでいいよ、と懸命に伝えれば、ディランくんは口をとんがらせた。そんなディランくんをマークくんが宥めれば、しぶしぶ手を離してくれる。あのクラスの男子の言葉がぐるぐる頭の中で回っていた。アメリカのジュニアサッカー界のエース。プロになるだろう子、だ。私は今さらながらすごいところに来てしまったなあと思ったと同時にディランくんが華麗にシュートを決めた。



ディランくんが今日の練習どうだっただかと聞いてきたので、かっこよかったよといえば嬉しそうにピョンピョン跳ねるのだった。その後、マークがミケーレがとチームメイトの話をしてくれた。まあ半分以上わかんないんだけど。それでも彼は楽しそうに語るので私も楽しいなあと自然にそう思えるのだ。それにしても、サッカーをしているときの彼はすごいとしか言い様がなかった。サッカーのサの字も分からない私でもそう思うのだから、知識がある人から見ればどれほどすごいのだろう。アメリカのジュニアサッカー界のエース。こうして見てると普通の男の子なのにね。




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