「楽しいよ。とても」


基山くんが泣いていた。
泣いている、気がした。実際見えないし、声から考えても泣いているようではなかったけど、そんな気がした。
本当は知っていた。基山くんが今、毎日のようにニュースで騒がれている地球に侵略してきた宇宙人の一人だということ。その楽しいといったサッカーでたくさんの人を傷つけているということ。それを知っていて、あんな質問をした私は非道なのかもしれない。先日、ウルビダと名乗る女の人が私のもとへ訪れ、基山くんのことを教えてくれた。ウルビダさんは基山くんのチームメイトであり、練習をそっちのけで地上を徘徊する基山くんが気に食わないみたいで、その徘徊場のひとつである私の前に現れた。私に真実を告げれば基山くんがどうもしなくとも私が離れるだろうと思ったのだろう。だけど残念ながら私はウルビダさんが思っているほど臆病でもないし、いい子でもない。せっかくできた話し相手を手放す気なんかさらさらなかった。それが宇宙人であっても、犯罪者であっても。そんなのなんだっていい。それにウルビダさんが言ったことは何かの冗談かもしれない。そうでなくとも、私は基山くんがいてくれるならなんだってよかった。ひとりは、嫌だ。


「しゃべり子」
「なあに」
「ウルビダに会ったんだろう」


あーあ。ため息でもつきながらそう言いたいのを飲み込んで私はただ笑った。ある日の午後。基山くんが詰まることなく、すんなりと吐き出した言葉。彼は強情で嘘吐きだ。とにかく弱みを隠そうとする。それに気づくたび、彼を宇宙人なんかじゃなくて人間みたいだと思った。垣間見るそれが愛しい。まあ、私も大概、強情で嘘吐きだけど。そうだよ、と笑って言えば少し空気が揺れる。(あ、動揺した)それがおかしくてクスクスと笑う。それじゃホントに人間みたいじゃない。


「俺が、怖くないの」


以前、彼に「見えないってゆうのはずっと真っ暗ってことだろう。嫌になったこともあるんだろうね。俺なら生きられない」そういわれたことがあった。嫌になったことなんて有りすぎて、死にたいって思った回数なんて数えきれない。親の顔も、自分の顔も、彼の顔も知ることができずに何度も何度も声を押し殺して泣いたことだってある。あの時はそんなことを思い出しながら、確か笑ってこう言ったっけ。


「全然」




獣は暗がりに巣くう/100330

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