何も見えないとはどんな感覚なのだろうか。そう思ってかたく目を閉じてみる。するとただただ闇が広がるばかりだった。この暗闇の中で彼女は生きているのだと思うとひどく虚しくなる。ここには誰もいないし、何もない。孤独だ。目を閉じたまま、永遠としゃべり続ける彼女の声にじっと耳を傾ける。彼女の話はこの暗闇に反比例するみたいにいろいろな彩りを持っているようだった。そっと目を空ければ隙間から眩しいほどの光が遠慮なしに入ってくる。光の次に彼女の存在を写しだした。彼女は先天性の目のビョウキらしく、かろうじて光が薄らとわかる程度だという。だから俺の姿はもちろん、自分の姿形さえみたことがない。俺と話しているはずなのに、どれほど顔を覗き込もうと、けして交わることのないその目線をもどかしく感じた。いつだったか彼女に嫌になったことはないのかと聞いたことがある。彼女は怒るわけでもなく、悲しむわけでもなく笑ってこういった。「見えなくて不便だと思ったことはあるけど、嫌だと思ったことはないわ。見えなくていいことだってあるもの。ほら、もしかしたらわたしは世界一ブサイクかもしれない。けどわたしはそんなこと知らない。ね、見えなくて幸せなこともあるでしょう」これを聞いたとき、俺は彼女をとても羨ましく思った。きっと彼女は恐ろしいほど綺麗な世界で生きてきたのだろう。身震いがした。


「基山くんはサッカーやっているんでしょう。わたし、サッカーってよくわからないからこの間テレビで中継をみてみたの。ボールを蹴って点数を入れるんでしょう。点数が入ったときなんて、たくさんの声援が聞えてすごく賑やかだった」
「そう。面白かった?」
「うん。ふふ。基山くんがサッカーしてるとこも見てみたいな」


俺のサッカーなんて見ても面白くないでしょ。それに中継みたいに実況も解説もないから、きっと見づらいよ。そう彼女に言えば、つまらなさそうにそうかなあと呟いた。それからまた他愛無い会話が続く。水源のように溢れてくる言葉に俺は相づちをうちながら彼女の口からまたサッカーという言葉がでないことを願った。どうしようもないくらい綺麗な世界だけを見てきた彼女に俺のサッカーの話なんてしたくない。そこに踏み入れることが恐い。もし、君が見たいという俺のサッカーで各地の学校を壊しまわっていますと言ったら彼女はどんな反応をするだろうか。それでも笑ってくれるのだろうか。俺を、受け入れて、くれるのだろうか。


「基山くんはサッカー楽しい?」


突然、脈絡もなく、今日の夕飯の献立を聞くみたいな自然さで問われる。軋む心臓を隠して、俺はちゃんと笑えているだろうか。


「楽しいよ。とても」




から悲鳴

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