菊はかわいい。そんじょそこらの女の子よりかわいいし、繊細で綺麗だ。女である私より裁縫や料理など、家事は全般的に上手だし、茶道、華道、剣道や柔道なんかも異常なほど上手い。勉強だって欠かさない努力家だ。純日本人を思わせる真っ黒い髪に瞳。日焼けをしらない白い肌。すっと伸びた背筋に、さほど高くはない身長。物腰やわらかで、相手を立てる一歩引いた姿勢。かわいさの中にたまにみせる凛々しさ。誰からも信頼され、別け隔てなく接することができる。誠実な人だ。誰かを故意に傷つけることもない。
言わずもがな、私は菊に好意を持っていた。それは恋愛感情というにはあまりにも粗末で、だけど友愛と言い切るには器が小さすぎる。その辺の女友達よりも信頼できる人だった。例えるなら兄弟に近い感覚だったかもしれない。私には彼の隣がとても心地のよい場所だった。


「き、く…?」


じゃあ、今わたしを天井を覆い隠すかのように組み敷いている男はだれだ。知らない。こんな男、私は知らない。


「知ってましたか、しゃべり子さん。私だって男なんですよ」



羊だって食べる/100425

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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