俺の主人の娘であるしゃべり子は俺のことをおおさまと呼ぶ。王様ではなくおおさま。しゃべり子が小さいときに舌足らずに言い放った言葉。俺を示す代名詞のひとつ。俺の、名前。
しゃべり子とは彼女が生まれてからの付き合いだった。しゃべり子が主人のことをぱぱといえるようになったころ、俺に名前をくれた。おおさま。その時からしゃべり子を守るのは俺の役目でどこかに遠出するときは勿論、街にでるときも、広場にあそびにいくときも一緒だった。近所の人たちにしゃべり子ちゃんいいわね。頼もしいナイトがついているもの。そういわれて俺は胸をはって、しゃべり子は嬉しそうに笑うのだ。そうだ。俺が守ってきたんだ。そんな小さかったしゃべり子は、今日この日、俺を置いて旅にでる。


「ねえ、おおさま。似合ってるかな」


迷いに迷って決めた服を少し恥ずかしげにくるりと一回転してみせたしゃべり子に俺は精一杯頷いた。はにかむしゃべり子をみて幸せでいっぱいになる。何年も見てきた少女はいつの間にか、こんなにも大きくなっていた。


「いってくるね、おおさま。私が帰ってくるまで元気でいてよ」


いくよ、王子。そう言われてでてきたのはポッチャマで、俺のほうを暫く見た後、しゃべり子の後ろについて行く。その小さな後ろ姿に頼むと激励を送るしかなかった。もう俺では守ってあげられない。こんなにも年をとってしまった老いぼれでは守ってあげられないのだ。この時思い知らされた。ここが俺の限界なのだと。頬にあたたかな滴が流れる。そのことに気付かないほど俺は年老いていた。



王国は遠い昔の残像で
創られる

091109
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