夏になればおばあちゃん家で過ごすのは毎年の恒例行事みたいなものだった。おばあちゃんはおじいちゃんが亡くなっちゃってから一人で小さい小さい島の小さい家に住んでいる。あたしはおじいちゃんとは会ったことがない。あたしが小さあいとき。あたしが本当に赤ちゃんだったときに死んじゃったから会ったことがないってわけじゃないんだけど、おじいちゃんとはしゃべったことはないし、どんな人だったかもわからない。とにかくおばあちゃんはあの小さい家に一人で住んでいる。むかあし、おばあちゃんもあたし達と一緒に住めばいいのにね、とママにいったらおばあちゃんはわたし達と過ごすことも大事だと思っているわ。だけどおばあちゃんにとってあの家はね、それ以上に大切な大切なものが詰まっているのよ。大きくなれば、貴女にもわかるようになるわ。そういって子どもを慰めるようにあたしの頭をなでた。実際そのときのあたしは子どもだったんだけどね。そして今年の夏も例外なくおばあちゃん家にいくことになった。例外なく、だけど例外はあった。今年はママもパパも来なくてあたし一人だけでおばあちゃん家に行くことになったのだ。二人とも仕事が忙しいんだって。そんで口をそろえて「チカはもう子どもじゃないから一人でも大丈夫」ってゆうの。それを近所のおねいさんにいえば「大人もいろいろ大変なのよ。まあアンタはまだ子どもだからわかんないだろうけど」と格好よく煙草を吹かしながらいった。子どもだとか子どもじゃないとかぐるぐるしてる。ぐうるぐる!まあ、あたしは自分が子どもってほど子どもじゃないけどまだ大人じゃないってなんとなあくわかってるんだけどね。だけど変なカンジ。友だちのミヨちゃんが大人って勝手なのよ。自分の都合ばかりなんだものって言っていたのを思い出しちゃった。どうなんだろう。勝手なのかな。だけどおばあちゃん家にいけなくなるなら大人になりたくないなあ。けどおねいさんは格好いいからやっぱり大人には憧れちゃうなあ。どうなんだろう。どうなんだろうね。

あたしが大人と子どもでぐうるぐるしている内に夏がやってきた。夏ってね、ヒトが一番ばかになりやすい季節なんだって。おねいさんがいってた。おねいさんは夏が一番嫌いなんだって。あたしは好きだけどなあ夏。きらきらしてぴかぴかしてるもの。ママがおばあちゃん家に行くための船のチケットをとってくれた。飛行機でもいいんだけど飛行機は一日一便しか飛んでないし飛んでない日もあるんだって。それにあたし海好きだからね。夏みたいにきらきらしてぴかぴかしてるもん。おばあちゃん家に行く日、朝早くに重たいリュックを背負う。荷物って選ぶのがたあいへん。どれも必要な気がするんだもの。港まではパパに車で送ってもらった。助手席に乗るママにおばあちゃんの迷惑にならないようにするのよ、みたいなことを耳にオクタンができそうなくらい言われた。耳にオクタンってゆうのは例えみたいなもので実際できるわけじゃないんだけどね。おばあちゃんが住んでいる島へいく船をみつけて乗り込む前にママとパパが気をつけてねっていう。大丈夫だろうけどって。大丈夫、大丈夫。なにが大丈夫なんだろう。また変なカンジ。船に乗りこんだらすぐに汽笛みたいなのを鳴らして出発してしまう。二人がどんどん遠くなってすぐに見えなくなっちゃった。少しだけ寂しくなったけどおばあちゃん家にいける嬉しさの方が大きいかな。船の中はあたしとあたしの手持ちであるマリルリのルリちゃんしかいなかった。船長さんに聞いたら今日はあたし達だけなんだって。すごい。カシキリだ。ルリちゃんときゃっきゃと遊んでたらいきなり水しぶきが上がる。びっくりして見たらホエルコがいて、そのすぐ近くにはもっともっと大きいホエルオーがいた。「すごいねえ!大きいねえ!親子かなあ」そうゆうと船長さんがそうかもしれねえなあと笑った。
島に着けば懐かしい匂いがした。ああ、夏だなあ。この島にはいっぱいの夏が詰まってるんだ。港から歩いておばあちゃん家に行かなければならない。歩いて一時間ちょっとくらいかなあ。昼ご飯までには着くかなあ。ルリちゃんとでたらめな歌をうたいながら歩く。らんらららん。あたしも上機嫌。ルリちゃんも上機嫌。スキップしそうなくらい足取りも軽い。らんらららん。そんなあたしたちの前にヒラヒラリとバタフリーが横切る。きれいだねえ、ねえルリちゃん。ルリちゃんが高らかに声をあげた。いろいろ道草したからかなあ。二時間くらいかけておばあちゃん家に行き着いた。おばあちゃん家は去年とかわんなくて、ひまわりとか玄関には朝顔とかがきれいに咲き誇っている。おばあちゃんがいっぱいの愛情をこめて育ててるからこんなにきれいな花がさくんだろうなあ。


「おばあちゃあーん、ただいまあー」


玄関でもう一回おばあちゃーんっていったけど返事がない。引き戸に手をかけたら簡単にあいた。無用心だなあ。でもおばあちゃんがゆうにはここにはとる人もいないし盗られるものもないらしい。あたしん家ではカギかけておかないとママに怒られるのにね。あいた引き戸から顔だけを突っ込んで声をあげる。「おばあちゃあーん?」沈黙。居ないのかなあ。それなら中で待ってようかなあ。そう思ったとき右肩を軽くたたかれた。おばあちゃん?と思って振り返ったけど、おばあちゃんより背が高くて少しだけ見上げた。緑色の髪をしたお兄さんだ。誰だろう。この島では見たことないなあ。ぼうっとお兄さんを見ていたらお兄さんが口を開いた。


「キミ、この家に何か用かい」


んん?




101024//知らないお兄さん
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