駐車場の車止めに腰を下ろして、二人でお茶を口に運ぶ。

体を動かした後の水分は気持ちがいい程、喉から体内に吸い込まれて行った。



「しっかし、あのバカはどうしてこんな事ばっかりしやがるのか、手に負えねぇよ。」



漸く落ち着いたからか、沖田の所業を思い出して土方は既に綺麗になっている車を睨みながらぼやいた。


その名前に斎藤の指はピクリと反応した。



「そういや、お前あいつと仲がいいんだったよな?お前と総司じゃまるっきり真逆だってのになんでなんだ?」



何の含みも無い唐突な土方からの質問に、斎藤は一瞬躊躇ってしまう。


ここで沖田を悪く言えば自分に何かしらのプラス効果があるのかもしれない。

だが、沖田自身を自分は微塵も嫌ってはいないからそんな話はしたく無い。


でもそれをすればきっと土方の口から零れる言葉に、自分は酷く嫉妬するのだと思う。



ーー聞きたく、無いのに。



「……総司は土方先生にだけは甘えているようで子供じみた悪戯をしますが、他の者に対しては優しい人間です。言い方は多少捻くれている所もありますが、嘘の無い本心を口にする人間性を俺は買っています。」



ーー嘘はつけない。



俯きがちに、でもはっきりと口にした斎藤の言葉に土方は困ったように笑う。

きっとそんな表情をしているのだろうと、土方の顔を見なくてもわかるから斎藤は視線を缶のお茶に注いだままでいた。



「ありがとうな、斎藤。」



本当の事を口にしただけだ。


総司の話をしただけだ。


なのに、貴方の口からは感謝の言葉。



何故、総司の話をして。

貴方に感謝されるのだろうか。



ーーやはり、聞きたく無かった。


総司は貴方の『特別』だから。

総司を褒めれば、貴方も喜ぶ。

総司をけなせば、貴方も傷付く。


そういう、事なんですか?



「あいつは昔っから俺や近藤さ……嫌、校長とか歳の離れた人間としか関わって来なかったから、人付き合いが上手く無ぇんだ。かといって素直でも無ぇから、実際あいつは弟みたいなモンだから気にはしてるんだが、立場上あからさまに特別扱いはしたく無ぇからな。」



ーーしていますよ、充分。


ーー『特別』扱い。



「俺にはタチの悪い悪戯を仕掛けて来たと思えばいきなり家に転がり込んで来たり、本当ガキ臭ぇくせに態度はいっちょ前でよ。まったく困った奴だぜ。」



沖田を思い出しているらしく、口にする悪態の割には声色が優しい。

きっと、目を細めて自然に微笑んでしまっているのだろう、貴方は。



大切な、『特別』な存在を思って。




「……あんな捻くれたバカな奴だけどな……これからも頼むぜ、斎藤。」


自分に向けられた視線と、自分に当てられた言葉なのに。


酷く、苦しい気がするのは何故か。



ーーやはり、聞きたく無かった。

ーー総司を思う、貴方の言葉など。




「……はい。」




貴方の目を見られなくて、無理矢理引き攣らせた笑顔で頷くしか無かった。


貴方は知らない無意識な貴方の言葉。


そこに含まれる感情が弟としてのものなのか、個人の存在としてのものなのかはわからない。



でも、自分には無い『特別』。


その思いの違いを思い知る。


貴方が口にする言葉。



例えば、『バカ』が愛情に変わる時。



そこに宿る意味は変わっている。


だから聞きたく無かった。


だから知りたく無かった。



貴方の『特別』はもう既に存在するのだと。



貴方の声は俺に教えるから。












 
 

ありがとうございました!
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