今日、俺はフラれました。



新しい 私になって



今日、俺はフラれました。
生まれて初めての恋。
初恋ってヤツです。
相手は俺がいる野球部の、二個上の先輩。
彫りが深くて、かき上げた髪型が良く似合うカッコいい人でした。
俺に野球を教えてくれて、自分の事そっちのけでいつでも助けてくれて。
気が付いたら、どうしようもなく好きだったンす。

けど、分かってました。

無理だって。
ただ、あの時。
心の中で何度も好きですと唱えた時に、微笑んでくれた様な気がしたから。
溢れた気持ちに驚いて、いっぱい泣きました。
洪水みたいに溢れて流れてどうしようもなくて、頭がオーバーヒートしたままの状態です。
こんな時にいつも一緒にいて背中を撫でてくれた先輩は、今はいないから。

告白の日に、いつもは見ない星占いを食堂のテレビでガン見してたら女子かって倉持先輩にからかわれて、反抗したらしたでプロレス技かけられてその隙に占いは終わってて。
倉持先輩に言われた通りなに女子っぽい事してんだって恥ずかしくなってスパーリングから慌てて逃げたり。

頭冷やすために洗面所に来たらいつも以上に四方に跳ねた癖毛とかヨレた制服が気になって直したりとか。

先輩にかける言葉をギリギリまで何度も何度も繰り返したりなんかして。



『沢村の事は、後輩として好きだ。』



分かってました。
先輩がそう言うこと分かってました。
だから、すみませんって言って笑ったら、先輩は優しいから痛そうな顔をして謝ってくれて。
優しく優しく頭を撫でてなんかくれたりして。
『いいんです。
はぐらかさずにちゃんと断ってくれたから。』
『俺、嬉しかったんです。』
心はそう言いました。
けど視界を潤ませる塩水はとことん自分勝手で溢れてこようと瞳の中でもがいてました。
泣かれたら、きっと先輩は自分を責めるから。
それじゃあって慌てて自分の部屋に戻って、今日オフで良かったって何処か他人事みたいに思いながら布団に潜り込んで声を噛み殺して泣いて。
じんわりと湿った枕も握り締めて皺の寄ったシーツもそのままにして、同室の先輩が自主練でいなくて良かったってホッとして。
けどずっと泣いてる訳にもいかないから昼からは赤い目元を隠して誰とも話さず黙々タイヤを引いて、夕飯食って倉持先輩のゲーム大会の誘いを断って布団に直行しました。
怪訝そうな先輩を毛布を頭から被る事でシャットダウン、声を出さずにただ溢れる涙を出しっぱなしにして、気付いたら朝で泣き明かした事実にちょっと呆然としたり。

分かってた、分かってた事でした。

目と目が絡まった時に、意思まで通じたと思ってしまった俺が悪いんです。

だから忘れます、くよくよはしてられないから。
忘れます、だって俺にはやらなきゃならない事があるから。
好きな気持ちはきっといつまでも俺の宝物だけど、とりあえずこの空っぽになった心を忘れて。
大切な思い出としてそっとしまって。
新しい俺になろう。
明日からまた先輩と野球が出来るように。
またいつも通りに笑えるように。

忘れます、忘れられると…思います。



新しい 私になって



熊き杏りさんの『新しい 私/になって』より
珍しく報われない沢村。
それでも彼は強いから、全部引っ括めて未練無く忘れますと言えるのかなぁ。



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