これには流石にため息をついて風呂の支度をしていると、えいじゅんは定位置となった足元にちょこまかとまとわりついて俺のジーンズで口周りを拭くからまた更に厄介だ。
「あーもー、やめなさいって。それはタオルじゃないから。」
ジーンズごと足にへばりついたえいじゅんをベりっと引き剥がして止めると、今度は自分のパーカーで口元を拭おうとする。
『IfromNY』が悲惨な状態になる前に慌てて腕を掴まえて停止させるも、もぞもぞとなんとしてでも拭おうとするえいじゅんに俺は本日二度目のため息を吐いた。
「ったく、しょうがないな。」
ぺろっ。
「うひゃっ…!」
「こらじっとしてろって。」
ケチャップがべったりと付いたえいじゅんの口周りに、下心半分呆れ半分でケチャップを舐めとる様に舌を這わせる。
「ぶはっ…!くすぐった…うぎゃっ?!ぶはははははは!」
「…まぁ、園児に色気を求めるだけ無駄か。」
わざといやらしくぴちゃぴちゃと舌を動かしてみても、くすぐったさから大爆笑のえいじゅんにがっくりと肩を落とす。
本人からは「みゆきのへんたい!」なんて言われてしまう始末で、虚しさから涙が出そうになった。
叶わないよなぁ、俺の恋。
「ふろいくぞみゆきー!」
「いぇっさー…。」
脱力気味の俺の手を引っ張って風呂場に行くえいじゅんはとても元気だ。
不毛な恋に三度目のため息を小さく吐いて、俺は風呂場の扉を開けた。





バシャッ!
「ぶっ?!」
「ばぁぁか!」
「あのな…えいじゅん、これはなんの恨みがあって…。」
バシャッ!!
「げほっ!」
「わははははははは!」
こんにゃろう…。
脱衣場までは大人しくしていたえいじゅんも、風呂場に入れば最早小さな怪獣だ。
浴槽に入ればお湯を顔面目掛けてかけてくる。
シャワーを渡せば水を噴射したまま振り回す。
ボディ用スポンジを渡せば何処にいくかわからないもの凄い勢いで投げつける。
髪を洗おうとすれば暴れまわり泡を撒き散らす。
今のところその全ての攻撃を喰らっているのだが、子供だと思って甘く見ていた。
奴等は容赦というものを知らない。
「ごほっ…!えいじゅん俺死…!」
「わー!」
「ごふっ?!」
やっとえいじゅんを荒い終えてぐったりしながらもワックスで整えた髪をシャンプーで洗い流していると、それを見計らって洗面器になみなみ汲んだお湯をでこれでもかとかけてくる。
泡は目に入るわ息は出来ないわ水の衝撃が痛いわで、たった髪を洗うという動作にも命がけだ。
俺…えいじゅんに命狙われるような事したっけ…?
……ケチャップかな。
「げほっ!げほっ…!」
「…みゆきー…だいじょーぶかー…。」
惚れた弱味というやつか、本気で噎せている俺を心配したえいじゅんが浴槽からの攻撃を止めて見上げてくる。
そんなうるうるした目で見つめられれば大丈夫だと言うしか無いだろう…!
というか、こんなえいじゅんを毎日毎日風呂に入れている両親に拍手を送りたい。
やはり親は偉大だ。
「大丈夫だけど…ちょいタンマ、ホント勘弁してください。」
「おれのかちー…。」
うん、オッケー、勝ちでいいから!
ざぶんと暖かい浴槽に入ると、くったりと力の抜けた身体が幾分か楽になる。
こんなに全力で身体を洗ったのはいつぶりだろうか…多分小学生くらいまでだな、風呂場でこのテンションは。
「ふぁ…ぁぁ…。」
遊び疲れたのか、湯に浸かりながらえいじゅんが欠伸を溢しこしこしと目を擦っている。
そりゃあんだけ暴れりゃあな、疲れるだろうよ。
「みゆきー…。」
うとうとしはじめた身体を支えたかったのかぺたっと俺の胸に背中をくっつけてきたえいじゅんに、疲労で寝かけていた脳が一気に覚醒する。
「…〜っ!!!」
今までの風呂場攻撃のせいで全く意識していなかったが、今えいじゅんは裸なわけで、もちろん俺だって裸…。
やっべ…理性がもたねぇわ…。
不意に意識してしまったえいじゅんの身体を直視できなくなって、視線がうろうろと天井をさ迷った。
いくら倉持に変態やらショタコン扱いされようとも、一応一般常識は持っている。
ここで理性を切ってしまえばなにもかもが終わってしまうのは充分承知だ。
「けどなぁ…生殺しだろこれ…。」
子供らしいきめ細やかな肌を眼前に晒されて、はぁー…と四回目のため息。
まだえいじゅんが小学校高学年くらいであれば望みはあったのに、残念ながら神様や運命は残酷だ。
「…ま、諦める気はさらさらねぇんだけどな。」
それでも欲しいと思うこの小さな存在の肩口に、真っ赤な口付けを落として今日は満足することにしよう。





カチッ。
「おやすみえいじゅん。」
「おやすみみゆきー…。」
一人分のベッドの中で、大きな身体と小さな身体を寄せ合う。
風呂上がりのぽかぽかした身体がなんだかくすぐったくて、一人でクスクス笑ったら気に入らなかったのか頬を思いっきりつねられた、痛い。「かあちゃんととおちゃんとじいちゃん…あしたになったらかえってくるかな…。」
「帰ってくるよ。夕方には迎えにくるってさ。」
「よかった…。」
「俺は残念だなぁ。えいじゅん帰っちゃうんだろ?」
「うーんー…。」
「やーだなー…。」
明日には無いこの暖かさが名残惜しくて堪らなくて、きゅっと抱き込んでくせっ毛に頬擦りをする。
そんな俺の雰囲気がいつもと違う事に気付いたのか、えいじゅんはとろんっと眠たげに瞳を潤ませながらよしよし、と俺の頭を撫でてきた。
いつもとは逆の立ち位置に少し驚きながら、今さら自分の行動がガキっぽいことを自覚して苦笑い。
まったく、まるで自分が駄々っ子の様だ。
「みゆき、さみしい?」
「ん?…んー、そーだなぁ、えいじゅんいなくなったら寂しくなるなー。」
「おれ、いなくなんないぞ!」
「はっはっは!だなー。」
また幼稚園で会える、そう思えばちょっとは気分が軽くなった。
そうだ、まだえいじゅんは俺の側にいる。
「おれ、みゆきとずっといてやってもいい!」
「……………へ?」
……夢か、これは。
ぱっちりと目を見開いた俺に、えいじゅんは真っ直ぐ大きな目をこっちに向けてきた。
どうやら冗談ではないらしい…多分。
「………嫁に来てくれんの?」
「よめ?」
「えいじゅんの父ちゃんと母ちゃんみたいになってくれんのってこと。」
ぱちぱちと瞬きを繰り返す瞳が、眠気と戦いながらもフルで思考を回転させているのが分かる。
けれど結局瞼はそのままどんどん下に下がっていくのだから、もう限界なんだろう。
「ほらほら、もう寝な?」
「んー…。」
布団をかけなおしてやってぽんぽんと背中を撫でると、小さな身体がすり寄ってくる。
思わず浮かぶ笑みをそのままに自分も目をそっと閉じると、抱え込んだえいじゅんがもごもごと最後の力を振り絞って呟いた。
驚いて目を開いて見下ろすも、もう力尽きた後ですーすーと穏やかな寝息をたてて眠っている。
まったく今日は驚かされてばっかりだな。
なんて思っても、込み上げてくる幸せに全てかき消されて喜びしかのこらなかった。
「サンキューな、えいじゅん。」



『おれがいっしょにいてやるから、ずっとさみしくないよ。』


えいじゅんくんとみゆきせんせいと
将来が楽しみです




「あら?えいじゅん、その肩の赤いのどうしたの?」
「んー?しらない!」
「あらあら、虫にでも咬まれたのかしらねぇ?」





えぇ、御幸先生の仕業ですよ←
自分の果てなくない文才を振り絞るも撃沈!;
だめですね…元ネタに凄く萌えたのですが全然自分の力が付いてきませんでした\(^p^)/
無駄に長いだけっていうね!;
すみません!;
せっかくネタ提供していただいたのにうまい具合にいきませんでした!;
リベンジは幼なじみパロで果たしますので…必ず!←
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