「だぁー!買った!」
「本当にな。」

両手に1つずつ抱えている袋をベンチ脇にどさりと下ろしながら、栄純はふぅと息を吐いた。
なかなか外に出る機会などなく、着替えは実家から届くものの直ぐ汚してしまう自分には洋服が不足していたのだ。
買えて良かった、とほっとする栄純とはまた違い、一也はとりあえず気に入ったものを買っているみたいで栄純のそれより量は多かった。
「どんだけ買うんだよ。」
「普通じゃねぇ?」
「俺こんだけなんだけど。」
「それはお前が少ないの。」
しれっと言って見せる一也の袋は大きな紙袋で、色んな色や柄の服がチラチラと顔を覗かせている。
今時のチャラい感じではなく、一也独自のおしゃれ感覚に改めてセンスの良さとそれを着こなしてしまう一也のルックスの良さにちょっとだけ嫉妬してしまった。

「小腹減らねぇ?」
「減った…甘いもん食いたい…。」
「クレープ食う?」
「食う!」

食べ盛りのキラキラした目がぱっと見開かれて一也は思わずくすくす笑ってしまう。

「なにがいい?」
「チョコバナナ!」
「はいはい。」
「あ、金は払うからな!」
「お前まだ言うのそれ。」

少し離れた所に止めてあったビビッドピンクのワゴン車のクレープ屋に歩を進める一也を、栄純はぼんやりと見つめていた。
1年前の自分では、今の自分を想像出来なかっただろう。
普通に故郷の仲間達と野球を続けるものだと思い続けていたのだから無理もない。

『人生、なにがあるかわかんねーよなぁ。』

自分に、同性の恋人がいるなんて、前の俺が知ったらどう思うだろうか。
「あ、良かったらぁ…。」
らしくなく黄昏ていた栄純の意識を引っ張り戻したのは、ワゴン車の定員からクレープを受け取って帰ってくる最中の一也…ではなく。
その一也に話しかけている女の子2人組だった。

ため息。

確かに自分の知っている限りで一也は果てしなくモテる男だった。
見てくれもいいし、優しいし、なによりカッコいい。
女の子に声をかけられるなんて学校内でも日常茶飯事だったが校外でもか。
半分げっそり、半分イラッとしながら栄純は重い腰を上げた。
唇をへの字に結んでずんずんと近付いていくと、きゃぴきゃぴした声が大きくなって無意識に顔をしかめる。
「えー!いいじゃないですか〜!」
「ちょっとだけですって!奢りますよ?」
「いや、連れがいるから。しつこいよアンタら。」
え〜!ひっどぉい!ケタケタケタケタ。
呆れた、一也の絶対零度の視線にも気付かないのかこの女の子達は。
またもイラッ。
いつもならむっとするだけで溜め込んでしまう栄純も、この時だけは考えが違ったようだ。

「おい!」

「えいじゅ…。」
一也の後ろまで辿り着くとクレープを持っていない手を思い切り強く引っ張って抱えた。
不意討ちにも関わらず倒れなかった一也は流石鍛え方が違うのだろう。
それでも半歩後ろに下がってびっくりしたようにレンズの向こうの瞳が見開いていた。


「これ!俺のだから!」


ぽかん…。


いきなり現れた少年がナンパ中の男の腕を組んで高らかに宣言した事に女の子達は口を開けて固まっていた。
ふんっ!と2つ上のキャッチャー、宮内よろしく鼻息を荒くしながら栄純は更に一也の手に自分の手を絡めると、またずんずんと来た道を戻っていく。
引かれるままに進んでいた一也は、女の子達と同じくぽかんとした表情で先を歩く栄純を凝視していた。
普段ならあり得ない、こんな大っぴらな嫉妬は恥ずかしい等と騒いでした事がなかった栄純が、今、何をした…?
「…くっ…!はっはっはっ!」
「な、なんだよ笑うな!」
振り返らない栄純の耳は真っ赤で、笑った一也の耳も真っ赤だった。
お互いがお互い慣れない事をしたせいでいつもより温度が上がっているらしい。
冬なのに繋いだ手にじんわり汗をかいたけれど、それでも全然不快じゃなかった。
「愛されてるなー、俺。」
「うっせぇ変態眼鏡!」
「はいはい、ごめんごめん。ほら、チョコバナナ。」
「罰として一也の奢りだからな!」
「ん、わかったから、早く食べろよ。」
慣れなくても、お互いは嬉しかった。



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