なにがいい?って言われたからとりあえずサイダーで、と答えてみた。



りんごあめをお食べ



りりり…り…ん…。
鈴虫がおずおずと羽を擦らせて静寂をかき消した。
昼間は蝉達が必死に鳴き喚いているから、鈴虫は遠慮してるんじゃないかとこいつ等の音を聞いて時々思う。
もっと自信を持てばいいのに、命が短いのはお前等も一緒だろ。

「沢村。」
「…リーダー。」

ん、と差し出された水色のサイダー缶の上にある、無表情なのかなんなのか分からない顔が此方を見下ろした。
相変わらずいつもなにかを思い詰めている様な険しい眉毛はつり上がったままで、力を抜く気配は一切ない。
「あざいます。」
「あぁ。」
烏龍茶と書かれた茶色い缶のプルタブを易々と開けながらベンチに座る我がチームのキャプテンに、俺は受け取ったサイダーを喉に流しながら拳を握る。
キャプテンを夜中、しかもこんなベンチに呼び出したのは自分だ。
話したい事がある、といった後輩に嫌な顔1つせず(いや、この人の顔色が変わった事なんてそうそうないのだが)この人は合宿中泊まっている部屋から態々出てきてくれていた。
それでもなかなか口を開けない俺を、多分辛抱強く待っている。
「俺、去年の冬に地元の皆と初詣行ったんすよ。」
「初詣…?」
ぽつり、とサイダーの色に染まった喉は少し掠れた呟きを絞り出す。
この真夏に初詣というなんとも季節違いで突拍子の無い話題に、リーダーの眉間の皺がぐぐぐっと深くなった。
「今日、そん時の写メがダチから送られてきて…食ったりんごあめうまかったなぁとか色々思い出して。」
今は遠くの、地元の仲間達との中学時代。
りんごあめを口いっぱいに頬張って笑われた記憶。
「…恋しくなったか。」
「いや…そうじゃなくて…なんていうか…。」

違う。

確かに懐かしさと少しのホームシックをあの写メは運んできたが、そうじゃなくて。

「俺、リーダーと初詣行けないんだなぁ…。」

「…沢村?」

この人はもうすぐ引退する。

勝ち続けようが負けようが、夏が終われば引退。
それは確定した未来で、年末なんて受験生には忙しい時期になんでもない後輩の為に時間を割くなんてのも馬鹿げてる。
そのまま順調に大学に進んで、そんで、きっとまた追い付けない距離を突き付けられたまま俺は取り残されるのだ。
「俺、初詣行きたいっす。」
リーダー、と。
バレない俺の副音声。
「行けるだろう、来年にメンバーと。」
「エロ眼鏡と元ヤン先輩ですよ?!またなに言われるか…。」
はぁぁぁ…とついたため息は誤魔化し。

嘘、すいません。

俺、あなたと一緒に居たいだけ。

伝わらないって分かってるからすらすら出る俺の声は何時もよりちょっと抑え目。
「…沢村。」
うぅんと将棋をしている時みたいに小首を傾げたリーダーが俺を呼ぶから、なんですかって笑おうとしたら抱き締められた。
え、なに、なんで。
せっかく買って貰ったサイダーが落ちて弾けてぶくぶく叫び出して。
鈴虫を妨害するみたいな俺の左胸の音はドコドコとうるさい。
ごめん、鈴虫。
悪気は無いけど不可抗力だ。

「リー…ダー?」
「いや、すまん。」

いやなにがですかなんなんですかなにしてるんすかわかってんですかなんのきのまよいですかやめてくださいやめてくださいったらきたいなんかさせないでおねがいしますはなしてくださいおねがいしますよはなしてくださいってばねぇ!

「初詣に行こう。」
「リー…。」
「りんごあめを買って、お詣りをして御守りも買おう。」

ぎゅむっと押し当てられたリーダーの左胸もドコドコドコドコ…あれ、なんだ同じじゃん。
「だから、俺がもういなくなるみたいな言い方はやめてくれ。」

…あぁ。

「…うす。」
「まだ夏は長い…。」
きっと将棋の時みたいに頭を捻ってくれたんだ。
一生懸命考えて、俺がなにを感じてるかなにが不安かを手探りで探して。
言葉数が少なくても真っ直ぐに。
だから、俺はこの人が


すき、だ。


口パクの気持ちが伝わったかなんかもう知らない。





愛し子よりんごあめをお食べ
僕の隣で唇を紅く染め上げて





遅くなりましてほんっっとうに申し訳ありません!
遅くなりすぎて初詣とか季節じゃなくなったよ…(遠い目)
初のキャプテンでしたがあの男前っぷりが出ない…orz
一応あの最後の愛し子〜は哲さんの心情なんですが…文才よ降りてこい!
こんなのでよろしければ好きにしてやってください…!

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