「お前、生意気。」


いきなりかよ、この人。



エイジのうだうだ



あっつい太陽光を反射してグラグラと輝いていたグラウンドは、もう黒いテーブルクロスをかけられたみたいに真っ暗だった。

ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。

はくはくと口を動かして受け入れた酸素が肺を痛め付ける、あぁ、苦しい。
ごろりと寝転がった土の上なんかに暖かさは微塵も無くて、ざりざりと擦れる砂の音と目の前に広がるうっすらとした輝きの星だけが今感じられる全て。

ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。

息のリズムが狂いっぱなし、そりゃあそうだ。
こんな時間まで素振りやら走り込みやらしていた俺の自業自得。
泥だらけになった真っ青なTシャツの襟で口元を拭って、大きくため息みたいな息を吐いて落ち着いた。
「っは……。」
冷たくなった空気に二酸化炭素が溶けて白くなる。
苦笑、苦笑、苦笑。
天才ルーキーとして雑誌に取り上げられて褒められて持て囃されて期待されて、知らず知らずの内に気を抜いてしまっていたのかもしれない。
過信、自分の力を信じすぎたんだ。
「はっはっは…情けないよなー…。」
青道の練習量に付いていけなくなる足腰、悲鳴を上げる肺。
中学では通じていた捕手技術もここの三年ピッチャーには通じない。
悔しくて悔しくて堪らなくても、2年の月日は残酷にも距離を生む。
追い付けない、追い付ける訳がない。
奥歯を噛んでぐるぐる胃の中で廻るもやもやをもう一度飲み込んだ。

不味い。

「おい眼鏡。」

「…あ?」

ぐるりと上から黒い影が顔を覆って視界が悪くなったと思えば、目の前には黒い星が光っていた。

「こんな時間までなにやってんだよ御幸。」

「沢村先輩…。」

違う、目、だ。

くりくりとした標準の瞳より大きな目が、まっすぐこっちを見ている。
3年投手の先輩は、怒ったような呆れた様な表情でただ黒い空をバックに立っていた。
「自習練?」
「夜中9時までユニフォームでかよ。」
「………あは。」
「あはじゃねぇ!やり過ぎだ馬鹿!」
ぐいっと胸ぐらを掴まれて半強制的に身体を起こされる。
この自分より6センチ程差がある体格は、華奢なくせにいつだって元気いっぱいで疲れを知らないらしい。
走り込みでもタイヤを引いて更に走ろうとするのだから尋常じゃない、いやマジで。
「ほら、食堂のおばちゃん心配してたぞ。」
そんな事を言いながら手に持っていたビニール袋の中からアルミに包まれたおにぎりやら水筒やらを押し付けてくる先輩は、本当に面倒見がいい人だ。
こんな時間まで練習してる俺にこうして度々付き合ってくれる沢村先輩は、俺の目標で、憧れ。
「お前いい加減にしないと故障するぞ。」
「いやいや、先輩の愛妻弁当があれば無敵ッスから。」
「は?!」
「いや、だってこれ先輩が作ってくれたんですよね?」
ぱくぱくと口が開閉され、日に焼けた顔がみるみる赤くなる。
効果音なら『ボンッ』が当てはまるだろ。
「食堂のおばちゃんが教えてくれたんすよ。」
「おばちゃんんんん!あっっれ程言うなってお願いしたのに…!」
ぐぉぉぉ…!と悶えている先輩が可愛くて仕方ないなんて、本人には言わないけど。
入部してからずっと俺はこの人とこの人のボールに夢中で、バッテリーが組みたいなんて思っていたりする。
「…ありがとうございます。」
ぱくり、頬張るおにぎりは塩がききすぎて少ししょっぱい。
きっと涙が出そうになるのはそのせいだ、きっと。
「…俺、絶対先輩を甲子園に連れていきますよ。」
「一年がなに言ってんだ生意気な!」
「はっはっは!いや言ってみたかったんですよタッチみたいな。」
「一人でやっとけ!しかもお前それ言わない方だから!」
「あ、それは言わない。」
「それになぁ、今年青道を甲子園に引っ張ってくのは俺達なんだよ!」
びしっと鼻先に指を突き付けられてごくりと口内にあった米を勢い良く飲み込んでしまった。
ギラギラと強い光に、目が放せなくなる。
初めて、この人のムービングボールを見たときと一緒だった。

勢い良く上がった足に、大きなフォーム。
振りかぶられた腕は空気を割くみたいで…。
この人と野球がしたい、この人の球が捕りたい。
捕りたい、捕りたい捕りたい捕りたい捕りたい。

「一緒に行きてぇなら、早く上がってこいよ、一軍。」

きらり、光るこの瞳を18.44メートル先から、俺が、俺だけが捕らえたい。

「言われなくとも、俺は正捕手になって先輩とバッテリー組むんですから。」
「…やっぱお前生意気!」
「はっはっは!…後俺、先輩も欲しいですよ?」
「………は?」
きょとんとした目も愛しくて、ついクスクス笑ったら頭を殴られた。



貴方に本気になのは真剣なのに!
エイジのうだうだ



遅くなりましてすみませんでした!
御幸後半と沢村先輩だったんですが…なんだか微妙に!;
こんなのでよければ捧げます!;
ありがとうございました!



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