「ごめん…。」

薄く張った涙の膜が。
揺らめく。
光を、見た気がした。



涙の膜



「監督。」

きしり。

パイプ椅子が軋む。
それに座ったその人は、やけに純粋な表情でナイターに照らされたグラウンドを涙の膜を張った大きな瞳に写していた。

「片岡、どうした?まだ帰んねぇの?」

振り返らない。
三十路にしては童顔な顔が、陰って、揺れる。
この人が名門青道高校野球部の監督に就任してから、自分が青道高校野球に入部してから、もう3年が経ったのだと考えると早いものだとため息が漏れた。
「明日だなー。」
「はい。」
鉄心は頷く。
お互い、顔は見ない。
土埃にまみれたユニフォームは、自分が三年間投げ抜いた証。
背中のエースナンバーを与えてくれたのは、この太陽のようなこの人。
「明日は稲実だってよ。」
「知ってます。」
甲子園までの一歩を当たり前の様に阻む敵の名を、らしくなく無感情に言ってのける。
感情的で熱くなりやすい監督にしては珍しい空気に、鉄心はかけていたスポルティングサングラスに指を掛けた。

「どっちが勝つと思う?」

らしくない。

その理由を鉄心は知っていた。
監督に就任してはじめての夏大会。
自分にとってもはじめての高校野球。
負けたのだ。
今回当たる稲城実業に。
甲子園一歩手前で。
その時の先輩たちの嗚咽は耳にこびりついてまだ反響している。
その時の幼顔この人が流した一筋の滴を覚えている。


「もちろん青道が。」


言う。

ぽつり。

一言。

しっかりと分析すべきだっただろうか。
不利だと、しっかり自覚すべきだっただろうか。
それでも、この人の前で誓いたかったのだ。
貴方に勝利を捧げたいと、酷く強く願ったのだ。

「だよな。」

にやり。

不敵に、素敵に。

笑う。

笑う。

試合中に見せるあの挑むような眼差しが、常に張っている涙の膜に鋭く反応したよう。
「片岡が、投げるんだもんな。」
「投げますよ。」
「全部か?」
「えぇ。」
「崩れたら交代させっぞ。」
「崩れませんから。」

笑う。

涙の膜が張る。

幼顔の男の目には不釣り合いな、酷く鋭い光を乱反射させて。
「鉄心。」
「…はい。」
「…敬語やめろ。」
「まだ部活中…。」
「終わった!」
一度言い出すと止まらないワガママに淡い息を吐き出す。
暗闇に融けて混じったその息が甘いのをこの男は知らない。
「…なんだ。」
「3年って、すげぇ短かった。」
「あぁ。」
「お前初っぱなから目付きヤバイし、しゃべらねぇし。」
「……。」
「けど人にスゲェ厳しいのに自分には三倍くらい更に厳しくて。追い詰めて。」
「…………。」
「俺は、チームを信じてる。」

ギシリ。

椅子が軋む。

じわり。

涙が溜まる。

ドクリ。

脈を打つ。

「俺は、お前を信じてる。」





泣かないでおくれ!
僕だけの君の涙を溢したくはないのだ



遅くなりましたぁぁぁ!;
最近めっぽう更新回数が少なく…殴ってやってください★←
片沢…初の試みでしたが、いかがだったでしょうか…?;
因みにスポルティングサングラスはあのグラサンをどうするかで迷った結果です
御幸とお揃いって高島マネージャー←に弄られて不機嫌だといいよ
とりあえず、リクエストありがとうございましたっ!;

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