それは火傷の様に
じくり、じくりと


鈍痛


「お前マジいい加減にしろよ。」
「なにが?」

久々にマジギレしている悪友にヘラヘラと笑いかけて見せる。
それを見て眉間の皺が3割程増したのは気のせいでは無いだろう。
だからといって、笑みを引っ込めるつもりは無いけれど。
「惚けんじゃねぇ。昨日の昼、お前なにしてた。」
「なにって…ナニ?」
「おちょくってんのか!」
倉持が壁を殴り付ける鈍い音が、人気の無いまるで異空間な廊下に木霊する。
威嚇なのか、それとも野球部として正捕手の俺を殴れないでいるのか…。
どっちにしろくだらない。
変な遠慮なんかしなくていいのに。
そういやコイツは昔から律儀に義理堅かったな。
「昼間…アイツはお前をずっと待ってたんだ…。」
「知ってるけど?」
「っ!」
普段後輩やチームメイトに向ける悪戯っぽい瞳が肉食動物のそれに変わりこっちを一瞥したかと思えば、次の瞬間にはブレザーの胸元をぐっと掴まれて引き寄せられていた。
ぐらりと揺らぐ足元と摩擦で鳴るリノリウムの甲高さに少し驚きながらも、顔はお得意のポーカーフェイス。
それが更に気に食わないのか歯と歯が削り合うギリッという音が耳の奥を引っ掻いていく。
無闇に怒鳴る声ではなく、唸る様な、吐き捨てるような声。
向けられた殺意に笑みを深める。
「ずぶ濡れで、テメェが来ねぇってようやく分かって、タオル借りに保健室行ったんだ…。」

知ってる。

倉持が何が言いたいのかも、自分がなにをしたのかも分かっているつもりだ。
昼を久しぶりに一緒に食うって約束を忘れてたワケじゃない。
急な用事ができたワケじゃない。
俺はわざと屋上には行かなかった。
「保健室で…なにしてた…。」
野暮な質問だな、と微笑みに含めて投げ掛けると掴まれてシワの寄った胸元に更に力を込めた様だ。
あーあ、アイロンかけなくちゃなんねーじゃん。
「女子とヤってたっつったら満足か?」

頬に鈍く重い痛みが走った。
正面から来た衝撃に足を踏ん張って耐えたからか無様に倒れはしなかったが、随分容赦無く殴ってくれたみたいだ。
じわっと口の端から鉄臭いものが広がってくる。
「ふっ…ざけんな。」
「別にふざけてないけど?」

至って真面目だ。

昼俺が屋上に行かなくてもアイツが待ち続けるのは分かっていたし、その後タオルを借りに保健室に向う事も予想済み。
「沢村、泣いてた?」
「…昨日熱出して寝込んだの知ってるだろ。」
もちろん、と肩を竦めれば蔑んだ様な視線が胸に刺さる。
風邪引いてクリス先輩に説教食らって部活休んだ、って事を俺が知らないとでも?
「部活終わって帰ってからも、アイツはずっと泣いてたんだ…。」


…嗚呼、それが聞きたかった。


にんまりと心の中で笑みを深めると、くるっと倉持に背を向けて歩き出す。
「おま…待てコラ!なんなんだテメェはっ!」
ぐっと肩を掴んで引き留めて振り向かせてくる倉持に、冷めた笑顔だけ張り付けて顔を向けてやる。
不快そうに目を細めたアイツはぐっと奥歯を噛み締めて自らの爆発を止めている様だ。
「なんで、アイツを泣かすんだよ…。アイツの事好きなんだろーが!」

「好きだからこそ、だろ?」

「…は?」

「好きだから、沢村のどんな感情も全部全部欲しい。俺しか考えれないくらい俺で一杯になればいい。」

それで一生消えない印を付けてずっと俺に縛られていればいい。

アイなんて不確かなモンよりずっと確かじゃねぇ?

掴まれていた肩の手を振りほどいて再度歩き出す。
倉持は引き留めては来なかった。
「頭イッてんじゃねぇよ、御幸。」
「これもアイ、だろ?」
背後から響いた低い声に極力明るく返し、今度はこっちから振り向いてべぇ、と舌を出す。

「お前には渡さねぇよ。」

それから倉持がなにを言ったか覚えてはいない。
ずっと笑っていたという記憶しか無く、後々思い出せば校舎に人が少なくて良かったと胸を撫で下ろしそうだ。
キュッと上履きが廊下を擦る音を聞きながら、まだ部屋で寝ているだろうイトシイヤツを思い出す。
帰ったら甘やかしてやろう。
ドロドロに甘く、思いっきり。
それで痛そうな表情を浮かべる顔をオカズに、また繋がろうか。
お前は今日はどんな顔して哭くんだろう。

まるでリノリウムの甲高さみたいな嬌声。

「アイシテル、栄純。」



心に一生消えない傷を作って
永遠に私を恨んで忘れないで




初狂愛…栄純さん出てきてへんがな!;
御幸は不安なんです、愛してるだけじゃ繋ぎ止めておけないから、逆に傷付けてしまう…今回とても御幸さん不器用ですね。
栄純は栄純で辛いし苦しい、けど初めての恋に戸惑っていて御幸から離れられない…。
因みに二人は一応付き合ってます。

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