大雨の帰り道、俺は気づいたことがある。
でもそれは不確かで不安定で器用とはいえない俺には、どうすればいいか分からない。
そもそも、ここ最近で急上昇した感情だと分かった。

他の野郎がアイツのことを褒めてて、ただムカついた。それだけ。
お前らより俺の方が知ってるって思い込みたくて。
そんでやっぱりアイツが他の奴には知らない顔をしてくれるのが嬉しくて。
ほっとする反面、何故か嬉しいようにも思えて。

この気持ちの正体なんて、すぐに分かる。



・・・そんな俺の気持ちも露知らず、俺の親友と楽しそうに話している俺の悩みの種を作り出した張本人を発見。



「ねぇ、緑間。おしるこの良さってなに」
「何を言っているのだよ、味に決まっているだろう」
「でも私ぶっちゃけ、おしるこ好きじゃないよ」
「女は甘いものが好きなんじゃないのか?」
「おしるこってさ、甘さを通り越して苦味を感じるのは私だけかな」
「苦い?あれが苦いのか」
「あの小豆の味が苦いような・・・」
「味覚が狂っているな」
「自販機で缶おしるこ買う人に馬鹿にされたくありません」
「馬鹿にしたわけではないのだよ」
「そう」
「そうだ」


・・・・・・。


「そう言えばね、昨日土砂降りだったんだよ」
「あぁ、昨日は高尾の蠍座は最下位だったからな」
「え、一番下だったの」
「そうだ。だから俺がラッキーアイテムをやろうとしたのに、アイツは断ったのだよ」
「昨日の蠍座のラッキーアイテムって?」
「テレビだ」
「て、テレビ?」
「わざわざ俺が家からブラウン管テレビを背負ってきてやったのに」
「・・・真ちゃん優しいね」
「お前のそういうところは高尾譲りだな」
「高尾譲りって何。兄妹じゃないんだからやめてよ」
「そういう意味ではない」
「そう」
「そうだ」


何だこの会話、シュールすぎる。
180超えるバスケ部エースと、帰宅部の何ら目立たない女子生徒が廊下で繰り広げる会話ではないことは確かだ。


「あっ、和成」
「・・・高尾か」
「二人で分けて、俺の本名出さなくていいだろっ」


俺に気づいてくれた名前に胸が熱くなる。(もちろん真ちゃんもね)
緑間と楽しそうに話してるのに、俺に気づいて呼びかけてくれる事が嬉しい。
そして、なんかもう可愛い!


「和成、和成」
「ん?」
「昨日、緑間が持ってきたブラウン管テレビってどれくらい?」
「これくらいかな」

俺は笑いながら両手を肩幅くらいに広げてみせると、楽しそうに目を細める名前。

やばいなー、可愛いなー。
何でこんなに名前が可愛く見えるんだろう。
男子高校生って単純だな、ホントに。


「すごいね緑間、力持ちだね」
「お前と高尾が弱すぎるだけだ」
「私はともかく、和成は違うよね」
「そーだ、そーだ!」
「うるさい、騒ぐな」


そうやって、俺のことだけは名前で呼んでくれるところとか、
さり気に俺をフォローしてくれるところとか、


名前の全ての行動に一喜一憂してる俺は、きっとコイツに恋してる。
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