「今日はこれで解散!」

大坪さんの大きな掛け声で今日の部活は終わった。
各自、着替えを済ませ部室を後にする。


「高尾」

俺よりも先に着替え終わってた緑間が、扉から顔を覗かせ呼んでいた。


「なーに真ちゃん」
「俺が呼んでいるわけではないのだよ」
「は?今、真ちゃんが俺呼んだんだろ」
「そうじゃない・・・」

そう言ってチラリと視線を後ろに送ると、緑間の影からひょっこりと名前が顔を出した。
なんか、面白い構図・・・・・・。


「教室で待ってるんじゃなかったのか?」
「それが、教室もなんか点検あるらしくて追い出された」
「あぁ、そうか」

コイツが作業着を着た男に追い出されるのが簡単に想像できて、思わず吹き出しそうになる。
「じゃあね、真ちゃん」と軽く別れの挨拶を済ませて、扉の近くにいる名前へと足を進めた。
俺に気づいた名前は、こちらを一瞬見ると悲しそうな顔をした。


「ごめん」
「何で?」
「いや、部室行ったら迷惑かなとは思ったんだけど何処行けばいいか分かんなくて」
「いや、大丈夫だって!」
「そっか」

全然顔に出ているわけでもないのに、なんとなくシュンとしてる名前の変化に気づいた俺は自販機からジュースを二本買った。


「ほらよ」
「え、」
「今日、わざわざ大坪さんから伝言係させちまっただろ?そのお礼」
「ありがと」
「どういたしまして」

パキっと缶の蓋を開ける音がして、俺も続いて一口飲んだ。
ふっと隣を見ると、どことなく嬉しそうな顔をしている名前。

この場にはいない、隣の二人組に心の中であっかんべーをした。
「お前らよりはコイツのこと知ってるぜ」とか「お前は全然コイツのこと分かんねーよ」とかの意味を込めて。
・・・・・・ちょっと優越感。


それからは部活の話だとか漫画の話だとか、ここにはいない真ちゃんの話とか、そんな話題で持ちきりになった俺ら。
久しぶりに馬鹿笑いして、名前も楽しそうで。

なんとなく、やっぱ幼馴染っていいよな。なんて思ったり。





、ぽつ


「雨?」
「まじかよ・・・」


小雨が次第に強くなっていく天気に比例して俺らも焦る。
俺は多少濡れても構わないが、一緒にいる女子にまで迷惑をかけるわけにはいかない。
ましてや、今日は俺が誘った日なのに。


「とりあえず走るぞ!」
「うん」

雨宿り出来そうな場所を見つけるまでは、とにかく走るしかない。
結構本気で走っていたが、ふと後ろ見ると少し離れたところに名前がちょこちょこといる。
あぁ、バスケ部男子に追いつけないか。

引き返して、名前の手を掴む。

「もうちょっと、頑張れ」
「あ、あぁ。ごめん」
「行くぞ」


俺今すげぇ大胆なことしてるんじゃね、なんてことを頭のどこかで思いながら走る。
にしても手首ほっせぇなぁ。女子って皆こんなもんなのか?
なんて名前に聞けるわけもなく、少し走ったところに屋根があるベンチがったので慌てて駆け込んだ。


「あー、疲れた。大丈夫か・・・」

俺と同様にずぶ濡れであろう隣の名前を見たら、既に鞄からタオルを出して滴る髪を拭いていた。
その光景から異様に目が離せなくなり、しばらく見つめてしまった。


「・・・・」
「ん?」
「あっ、いや」

わりと身長が高いなんて言っても160越えくらい。
隣の俺を見るにはやっぱり、多少目線を上にする必要があって・・・。
俗に言う、「上目遣い萌え」なんだろう俺も。

「何?」
「何も、」
「あっ」

一人で顔を赤くしてるなんてバレたら変な雰囲気になるし、何より今は目が合わせずらい。
そっぽを向いていると頭に柔らかい感触がした。


「ほら、タオル。使いたかったんでしょ」
「さんきゅ」
「いーえ」

貸してもらったタオルで顔を拭くと、鼻いっぱいに名前の香りがする。
一気に顔に熱が集まり、鼓動が早くなるのが分かる。

さっきから俺、変すぎるだろっ・・・!
これじゃぁ、まるで・・・、


「ねぇ、どうしたの?」
「俺も分かんねぇよ」
「・・・、変なの」
「真ちゃんから聞いたんだけどさ。今日、蠍座の運勢最悪なんだって」
「ぷっ、あはははは」
「な、何だよ」
「じゃあ、この雨はどっかの誰かさんが運勢悪いからなんだね」
「・・・・」
「ちなみに私は、蠍座じゃないよ」
「知ってるっつーの」
「ははは」
「ぷっ、!」

二人で笑い出したら止まらなくなった。
雨はまだ降り続いてるのに、俺らはお構いなしに笑いあった。

やっぱり、さっきの胸の高鳴りは嘘なんかじゃない。
今だって、確実にさっきより早い。


なんて目の前の俺にとっては小さい幼馴染は知るはずもないんだよな。
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