俺には幼馴染がいる。
女子にしてはわりと身長が高くて、素直じゃないやつ。
っていうかクールなだけ。

その性格ゆえにクラスでは、あんまり友達が多い方じゃない。
本人は気にしてないけど、幼馴染としては気になる程度。
男女共に、あまり喋らないアイツにとっては俺とか真ちゃんは友達と呼んでいいんだろう。

ちなみに彼女はバスケに詳しい。
そんなこんなで真ちゃんとも仲良くなった。
元々、口下手な二人だから前も今も特別喋るわけじゃないけど。

それでも多分、お互いに嫌悪の情は抱いてないだろう。


そして、その幼馴染もとい苗字名前は目の前にいる女子だったりする。



「聞いてる?」
「わり、何のことだっけ」
「このあとの部活、体育館の点検があるから部室でミーティングやって終わりだって」
「何で名前が知ってんの?」
「さっき大坪先輩が来てた、気づかなかった?」
「あー、うん」
「何度も呼んでるのに気づかないから、伝言頼まれた」
「・・・わりぃ」


別にコイツが嫌いで無視しただとか、そういう類ではない。
ただ、隣にいる男子二人が「苗字来たぜ」とか「やっぱ可愛いよなー」なんて言うから。

別に可愛くないから、なんて言いたいわけじゃない。
ただモテることに驚いた。だって男子なんか俺と真ちゃんしか喋らないんだぜ?
それなのに、こんなに高く評価されるなんて・・・・・・。

なんというか、複雑。


「・・・どうしたの?何か変だよ」
「今日、一緒に帰ろうぜ」
「え?リアカー乗せてくれるの」
「違ぇよ!なんで真ちゃんとお前の二人乗せて俺はチャリ漕がなきゃいけねぇんだよっ」
「あ、普通に帰るの?」
「・・・あ、あぁ」
「分かった。じゃあ教室で宿題して待ってる」
「おぅ」


パタパタと小走りで席に戻る名前を見送っていると、隣から「天然とか正義じゃん」「抜けてるなんて可愛いなー」という声が聞こえる。
ちなみに俺から言わせれば、アイツに天然要素の「て」の字もない。
別に今のは普通の勘違いだし、アイツは前々から俺と緑間のリアカージャンケンに参加したがっていた。

「残念でしたー!お前らの知ってる名前ちゃんなんて存在しませーん」
と言ってやりたかったが、あえて言わないで心の内側に秘める。


「つーかさ、高尾と苗字って付き合ってるのか?」

その問いは俺に向けられたものではなく隣人二人の会話から拾ったもの。
それでも正直、それを言われると結構ヘコんだりする。
こんなに仲が良いのだから、第三者から見れば付き合ってるように見えなくもない。
っていうか、付き合ってるようにしか見えない。

それでも俺たちはただの幼馴染なわけであって・・・・・・。



なんか心の中にモヤモヤとしたものが湧き出てくるのが自分でも分かった。
その正体不明のモヤモヤに居たたまれなくなり、俺は走って部室へと向かった。
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