先日にも変人の話をしたであろう俺が、あえてもう一度変人について語ろうと思う。

この秀徳高校の数ある生徒の中で、変人といえば緑間真太郎。
だがそんな緑間を越える、ぶっちぎりの変人を俺は見つけてしまった。

更に言えば、そのぶっちぎりの変人は多分、俺に一番懐いている。
なんという状況。俺は何人の変人を抱えれば気が済むんだ。
真ちゃんはまぁ・・・俺からだけど、苗字名前に至っては不可抗力だ。
だが、助けた俺が悪いのかも知れないとかも思ったりした。
それでもやっぱり相手が誰であろうと同じことをしただろうし、目の前で植木鉢が落下中で下に人がいたら俺じゃなくても同じことをしただろう。

だから俺は悪くない、人間として当然のことをしたまでだ。
でも別に、苗字名前が悪いっていうわけでもない。
強いて言うなら、苗字名前の頭が悪いんだ。


「高尾さん!高尾さん!今日は何かすることありますかっ」

・・・そう、コイツは頭が悪いんだ。

何で同い年なのに【さん付け】なの、とか。
何で同い年なのに敬語使ってるの、とか。
何で立場が高尾の方が上なの、とか。
この光景を見たら、そう疑問に思うやつは少なくないはずだ。

だから教えてやろう、答えは至ってシンプルだ。
知っているなら是非俺に教えて欲しいものだね!と。

「特にない、かな・・・?」

困ったように頬を掻きながら、視線をずらすと酷く落ち込んだ様子の苗字が目に入る。
なんというか、この状況に弱い。

俺はきっとコイツに甘いんだ。
本気で嫌ならもっと冷たく突き放せば良いし、お願いとして【近寄るな】っていう手段もある。
そんな行動レパートリーは多いはずなのに、決まって俺はいつものお決まりパターンに移ってしまう。

「や、やっぱ次の数学教えてっ!な?」
「はい!もちろんです、私は高尾さんの為に予習の予習をしてますから!」
「・・・・・・」

この嬉しそうなキラキラした目でお願いを承諾する苗字名前。
今なら犬の耳と尻尾が見えそうだ。
別にそういうプレイとかではなくて。

「さっき、こうなったから・・・ここではこうなるんです」
「うん」
「ここは公式に当てはめればいいだけです」
「なるほど、すごいね苗字さん」

他の生徒はきっと、ただ仲いいだけの友達とか。
中には、デキてるんじゃねぇかとか。
教師からは、真面目な生徒がいてくれて嬉しいとか。
この光景だけだったら、そう思うんだろう。

ここまでなら実際俺もそう思うし、逆に違う意見ならぜひ聞いてみたいね。
でもよく考えろ、俺の目の前にいるのは普通の女子じゃない。
秀徳一の変人・苗字名前だ!


「た、高尾さんに名前で呼ばれたあああああ!生きてて良かった!っていうか死ねる、今日死んでも後悔しませんっ!」

・・・・・・そう、コイツは変人なんだ。
ていうか最早変態レベル。

「でも高尾さん!名前で呼んで下さるのは死ぬほど嬉しいんですけど、私なんかの名前を高尾さんに呼ばせるわけにはいきません!私みたいなやつが高尾さんと対等な立場なわけではないので、もっと罵って下さって一向に構いません!」

別にドMっていうわけではないんだと思う、多分。
ただ自分と俺に差をつけて欲しいだけなんだ。
だから俺にさん付けするし敬語使うし、俺に呼び捨てで呼ばれたいんだと思う。
(あえて、罵って欲しがってるとかは言わない)

でもまぁ、俺からしたら少し(というより大分)変人なだけのクラスメイトの女子だ。
俺に変な趣味があるわけでもないので、俺は呼び方とか態度を変えるつもりはない。
・・・嫌がってるわけではなさそうだし。

「苗字さん」
「はい、何でしょう?」
「何でそこまで尽くしてくれんの?」
「命の恩人だからです!」
「もうそれは何回も聞いたって。他の理由は?」
「そうですね・・・・・・」

うーんと唸りながら顎に手を当てて考え込む苗字さん。
本当に黙ってれば可愛い、普通の女子なのに。

あっ、と声をあげたと思ったら笑顔で彼女はこんなことを言った。

「強いて他の理由をあげるなら、高尾さんのお傍に居たくてたまらないからですっ!」


散々彼女のことを変人だとか変態だとか言ったが訂正しよう。
目の前のクラスメイト・苗字名前は、俗に言う残念な美少女なのだ。


(最初の面影どこ行ったんだ・・・)
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