「おっ、名前ちゃんおはよー」
「た、高尾!」
「ん?」
「いや何でもない、おはよ・・・」
「?おーう」
「みみ緑間は?」
「真ちゃんね、今日はいつもと違う道を歩くと良いんだって」
「あの人、験担ぎの一つに同じ道通るとか何とか・・・」
「だよな!でもおは朝にそう言われちゃ仕方ないらしいぜ」
「・・・・・・」
「?」

朝、家を出るといつも会う二人組のうち一人はいなくて珍しく今日は高尾と二人で登校した。
ていうかさっきからギクシャクしすぎだって!
もっと自然体に・・・そう、気にすることなんてない!
いつも通りにナチュラルに振舞え!
そしてこの違和感を悟られるなっ!

「名前ちゃーん、どうした?」
「なななな何が!?」
「なんか挙動不審なんだけど、何かあった?」
「え、いや・・・まぁ、別に」
「そう?」
「もちろん!」

言えないっ!絶対に高尾だけには言えるわけがない!

今朝の私の夢が、高尾に告白されて抱きしめられた後にキスされた夢だなんて!
私の口が裂けても本人には絶対に言えない!

「昨日、名前ちゃんが言ってたゲームやったんだ」
「そう」
「あれ、めちゃくちゃ面白いよなー!」
「うん」
「特にステージ10のラスボスは手ごわいし、こっち明らかに不利すぎるだろって!」
「だね」

という会話と言えないレベルの会話をしながら二人で登校。
教室に着くと、先に来ていたらしい緑間が席で本を読んでいた。

「真ちゃんおはよー!」
「はよ、緑間」
「あぁ・・・苗字、髪が跳ねているのだよ」
「え?まじか、どの辺」
「右の耳の後ろだ」
「あ、ここか」

女子なんだから身だしなみくらいちゃんとするのだよ、と言いながら眼鏡を押し上げる緑間に安心する。
なんかさっきまで高尾と二人きりで息苦しかったからな。
緑間さん、今日は頼りになりそうです。


「なぁ名前ちゃん、4時限目って何だっけ」
「え、と・・・緑間ー」
「日本史なのだよ」
「だって」
「・・・おー」

「緑間ー、今日って英語の担当どっちだっけ?」
「高尾に聞け」
「え、緑間知ってるなら教えてくれたっていいじゃんかよー」
「知らないから高尾に聞けと言ってるのだよ」
「・・・・・・じゃあいいですー」
「・・・・・・」

今日一日の会話は全体的にこんな感じだった。
高尾に聞かれたことは緑間に流して、聞きたいことは全部緑間に聞いた。

高尾のことが嫌いになったとか、夢の所為で好きになったっていうわけじゃない。
ただ素直に、本当気まずい。それだけ。
好きな人っていうわけじゃなくて友達だから尚更。

でも、こんな調子で大丈夫か自分。

「はあああああ・・・」

重たいため息を吐いたら、HR終了のチャイムがなった。
あぁ!これでやっと部活だ!
部活に行けば向こうは向こうで、私は私で仕事がある。
しばらくは高尾と二人きりにはならなそうだな。


「高尾、苗字、部活に行くぞ」
「うん!ちょっと待って・・・」
「悪いけど真ちゃんさき行ってくれる?俺と名前ちゃん、後から行くから」
「え、」
「?そうか、遅れるなよ」

何のことか気づいていない緑間は不思議な顔をしながら体育館に一人で向かってしまった。
どうやら他の生徒も部活やら帰宅やらで、教室には私と高尾しか残っていなかった。

「たたた高尾?ぶっ、部活行かないの・・・?」
「名前ちゃん、俺何かした?」
「え、?」
「朝会ったとき、変だったから何かあったのかと思った。でも言いたくない事だってあるだろうし、名前ちゃんがはぐらかすから深くは聞かなかった」
「う、ん」
「でも真ちゃんにはいつも通りだし、ていうかいつも以上に仲良いし・・・」
「いや、それは・・・その」
「俺のこと、怒ってる?」
「ち、違う!」
「じゃあさ、俺のこと嫌いになった?俺、心当たりすらなかったから・・・」
「違うからっ!高尾のこと嫌いになるとかありえないから!」

高尾の足元のあった目線を、高尾の目に向けると真っ直ぐ目があった。
この状況が夢と一緒で、一気に心臓が高鳴った。
でも夢の私とは違って、今の私は目を離せなかった。

「名前、」

言ってくれ、と言いたげな目で私を見る高尾。
高尾が私のことを呼び捨てにするのは、本当に真剣なとき。
前に一回だけ、部活で大ミスしてヘコんでた私を慰めるときにこの呼び方だった。

「だって!言ったら高尾キモがるから!絶対に!」
「俺、名前ちゃんにキモいなんて言ったことないし思ったこともねーよ」
「だけどさ・・・」
「名前ちゃんは俺のこと本気でキモいと思わないっしょ?」
「うん、」
「それと一緒だって」

な、と優しい声で言うからなんか涙が零れそうだった。

「夢、見たんだ」
「何の?」
「・・・高尾に告白される夢」
「・・・それでお終い?夢の中の俺は名前ちゃんに告白して、目が覚めたの?」
「抱きしめられて・・・き、す・・・された」
「・・・・・・」
「ここにいる高尾が私のこと好きじゃないっていうは十分分かってるし、そういうの求めてるわけでもない!別に、私も高尾のこと好きだからこういう夢見たとかじゃないから!本当に高尾のことは、そういう意味で好きじゃないから!本当に違う!でもなんか、こんな夢見て・・・気まずくなっちゃって、」
「そこまで好きじゃないを強調されると逆にヘコむんだけど」
「あ、いや。そういう意味じゃなくて・・・」

分かってるよ、って言いながら笑う高尾はいつも通りで夢の中の高尾とは違かった。

「そりゃあさ、いくら一緒にいるって言っても所詮は男と女だし?それぐらいはあるって!」
「キモいとか思ってない・・・?」
「思わないって!俺のこと嫌いじゃないから、そういう夢見たんだろ?逆に嬉しいから」
「そ、っか」
「俺も似たようなこと、あっからさ」
「え?」
「・・・・・・名前ちゃんも言いづらいこと言ったんだから、俺も言っとくか・・・」
「う、うん?」
「引くなよ、まじで」
「当たり前」


「                」
「え・・・えええええええ!?」

「よっしゃ、部活行くぞー!真ちゃんに怒られたくないからなっ!」
「ま、待てよ!言い逃げすんな!」
「置いてくぞー!お前だけ監督にどやされろ!」
「た、高尾おおおおお!」


私の前を走っている楽しそうな高尾の顔を見て、夢の高尾よりこっちの高尾の方が断然かっこいいと確認した。



(俺、お前をオカズにしたことがある)
×
- ナノ -