「アイツ、本当にふざけてるよね」
「あぁ」
「元はといえば全部アイツの所為じゃん」
「あぁ」
「それなのにアイツは、いきなりバックれるってどういうこと?馬鹿なの?」
「あぁ」
「・・・緑間聞いてるの」
「苗字が俺の気持ちを全て言ってくれているから、俺から言うことは特にないのだよ」
「気持ちは同じってことで良いんですかね?」
「あぁ、そうだな」
「とりあえず、」

「「明日、高尾殺す」」


ここは放課後の美術室。何でバスケ部の我々が体育館に居ず、美術室にいるかというと今日の三時限目に遡る。

私たちのクラスは、水曜日のこの時間は美術。
美術室なわけで、自由席。そこも少し可笑しかったりするんだけども。
そしていつも通り近くに座った私たち三人は話ながらも進めていた。
そして他の生徒同様、その時間に終わっているはずだった。

・・・・・・高尾がいなければ。

アイツは何があったか知らないが、いつも以上にテンションが高かった。
そしていつも以上に私たちへのちょっかいが半端なかった。
それでも私たちはスルーしながら作業してましたよ、えぇ。
緑間と私の高尾スルースキルは、そんじょそこらの輩とは比べ物にならないんだよ。
それなのに、アイツは・・・。

「うわー!名前ちゃん、ちょー上手いじゃん!」
「おー・・・」
「ぷぷ!真ちゃん本当に美術とか苦手だよなー!」
「あー・・・」
「ほら!貸してみろよ、俺がちょっとやってやるって・・・」

そんなこんなで緑間の筆を奪いにかかるため、身を乗り出したら何ともまぁ。
私と緑間の作品に見事、絵の具の水をぶちまけやがったあの馬鹿は!

案の上、期限を守れなかった私たちは放課後部活も行かずに美術室で続きをやってるわけ。
まぁ、続きっていうか最初からだけど。


「あー、やる気起きねぇ」
「全くなのだよ。同じ作品を二度も描くほど退屈なものはない」
「ねー、私いっそ全部デザイン変えよ。あんま気に入ってなかったし」
「あれが気に入ってなかったのか?」
「描いてる最中にあれこれしてっただけだから、正直あんまり」
「苗字は美術が得意だったな・・・」
「あぁ、どうも」

ちらり、と緑間の作品を見ると何ともまぁ酷い。
酷いっていうか、なんかあやふや?センスは良いけど、画力が追いついていない感じ。
うん、緑間って見た目から絵とか得意じゃなさそうだしね。

ふわあああと欠伸をして眼鏡を押し上げる緑間は、こんなこと言うの恥ずかしいけどかっこいい。
なんか絵になるような・・・?

「あ」
「どうした」
「次のデザイン決まった」
「・・・どういうのだ?」

目を丸くしながら首をかしげてくる、目の前の大きな男。
大きさに似つかぬほど可愛い顔をしていた。

「うーん、テーマは【緑間】」
「俺か・・・?」
「そうそう、でも緑間本人描くわけじゃないから安心してね」
「俺に害がないなら何でも構わん」
「おーう」

やっぱ主色は緑だよね、そこに青とか紫の寒色を入れての・・・。
早々と白色が私の筆によって隠れている最中、緑間の視線に気づいた。

「ん?」
「それが俺のイメージなのか?」
「え、緑間はやっぱ緑でしょ」
「そうではないのだよ。それが苗字の俺に対するイメージなのか?」
「・・・・・・」

自分の絵をよく見てみたら、寒色系の色ばかりで少し暗い感じがした。
緑色が主色で、確かに緑間にぴったりだ。
でも、これが緑間のイメージなのかって聞かれたら多分違う。

「違う、ね・・・」
「?テーマを変えたのか?」
「ううん、変えてない。やっぱ変えよう」
「どっちなのだよ!?」
「いや、テーマは緑間で変えない。でもこの絵は変える。これは緑間じゃないね」

さっきからずっと頭に?マークが見える緑間を無視して、もう一度白紙から始める。
ピンク・オレンジ・黄色・赤。そんな色ばかりで塗ってみた。

「はい、完成」
「それが俺なのか」
「あぁ」
「人の作品にどうこう言う気はないが、俺ではないだろう」
「ううん、緑間っしょ。これ」
「・・・・・・」
「なんか暖かい感じでふわふわしてる」
「俺は体温は平均だし、どちらかと言うとふわふわしていない」
「ふふっ、そういうところがコレなんだよ」

笑いながら私の作品を示しても緑間は分からない、という顔をしていた。
なんか今日の緑間はかっこいいから始まって、最後まで可愛いづくしだったかな。

本当、可愛い所あるよね。
いつも変人なくせにさ。


「ほら、緑間も早く終わらせないと」
「分かっている!」
「おー、頑張れー」
「も、もう少しなのだよ!」


今日の緑間はどこか機嫌がいいようにも見えた。


(おっすー!二人とも、順調ー?)
(おー、高尾くん。ちょっとツラ貸せよ)
(名前ちゃん!?いつからそんな不良になったの!?)
(何言ってんのー!いつも通りでしょ、ねぇ高尾くーん)
(痛い痛い!ギブギブ!・・・名前ちゃんの作品可愛いね)
(テーマ教えてやろうか)
(え、うん・・・)
(てめぇの頭の中だよ!覚えてろよ高尾おおおおっ!)
(お前の頭は春みたいということなのだよ)
(なんか二人とも超怖いんだけど!)
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