汗で首元に髪の毛が張り付く。
女子の皆さんには分かると思うんですけど、目の前の男二人は分かってくれません。
「結すんでいるだろう」
「それでも結んだら結んだで、蒸れて暑いんだよ」
「いっそ切ればいいじゃん」
「切ったら失恋したとか言ってからかうくせに」
「んなガキみてぇなことするわけないっしょ」
「どうだかね」
「信頼ねぇな」
うー、じとじとして痒い感じがとてつもなく気持ち悪い。
今の私の髪はロングまではいかない長さで一つ後ろに結んでいる。
結んでいてても低い位置なので首にあたることは免れない。
いっそ、ショートにするか。
いやでも、今までの経験で100%確実に後悔することは分かっている。
つくづく私は美容師さんに恵まれていない。
「あ、なら高い位置にしてみれば?」
「あぁ。女子なら他のやつらもやっているだろう」
「私できません」
「何、高いとこで結べないの?」
「うん、元々髪結ぶの下手だし。二つ結びとかも綺麗にできない。これが限界」
コレ、と指差すものは今の可愛らしさの欠片もない髪形。
結ぶのは楽だけど、正直髪型を変えたいとは思ってる。
「なら俺がやってやるよ」
「え、高尾そういうの出来るの?」
「あぁ、俺妹いるから昔よくやってたし」
「そ、そうだったのか・・・」
「なんか意外だね」
「ほら、後ろ向いてみろって。あ、櫛持ってる?」
ポッケのポーチから櫛を取り出し、背後に立っている高尾に渡す。
なんか人に髪結んで貰うのって、小さい頃のお母さん以来だから少し恥ずかしい。
ていうか高尾に髪の毛をダイレクトに触られるのも少し恥ずかしい。
「名前ちゃん髪長いねー」
「そりゃあ男子よりは、ねぇ」
「親子みたいなのだよ、お前ら二人」
「お父さんに髪結んでもらわないでしょ、普通」
「そういうこっちゃないのだよ」
「痛くないー?」
「んー」
なんか髪を持ち上げながら櫛で梳かされていくのが分かる。
なんか気持ちいいなぁ。
「はい、できた」
高尾のその声で閉じていた目をあけ、手を頭の後ろに持っていく。
信じられないほど綺麗に、そしてポニーテールの位置に結ばれていた。
「うわ、すご。涼しいし」
「でしょでしょ」
「でも私できない」
「だから?」
「今日だけじゃん、涼しいの」
「ははっ!これくらい毎日やってやるっての!」
ニコニコと目の前で笑う高尾。
今日はなんだか優しいなぁ。いや、いつも優しいけど。
この前のコーラのお礼かね?高尾も案外律儀だなぁ。
「その髪型なら、これ合うんじゃね?ほら」
と言って、ポケットから出された何かを頭に填められた。
高尾の手を辿って、自分の頭を触ると細い縁に触れた。
「カチューシャ?」
「うん、ポニーテールとカチューシャで一気に女子力アップだろ」
「明るい印象になったな」
「あ、ありがと・・・」
珍しく素直に褒めてくれる緑間に、カチューシャをくれた高尾にお礼を言う。
さっき緑間には親子みたいって言われたけど、今日の二人は兄に見えた気がする。
(なんか名前ちゃんじゃないみたい)
(性格がキツそうな女子だな)
(・・・私のときめきを返せ)