午後六時を回った頃、俺たちバスケ部はいつも通り部活に専念していた。
普通の高校はこの時間でお開きになる場合が多いけど、秀徳は全く違かった。
これから、本格的な練習やゲームが始まる。
そのアップからゲームに入るまでの休憩時間に、隣にいる相棒がご機嫌斜めだった。

「・・・ないのだよ」
「何がないのよ、真ちゃん」
「テーピングがないのだよ・・・!」
「え、いつも付けてるのに今日は忘れたの?」
「違う、張りなおそうと思ったら切れた」
「あ、なるほど」

別にテーピングがないくらいで、お前のシュートは落ちねぇよ。
でもさすが、こいつの精神面で大丈夫じゃねぇんだろうな。

そんな風にわたわたとしていたら、休憩終了のブザーがなった。
取り合えず落ち込んでいるやら焦っているやらの緑間を引きずって集合した。




あの人事とやたらに尽くしまくってるやつだぜ?
自分の爪をむき出しにて練習やるのは、きっとコイツの人事に尽くしていないんだろう。
あの後の緑間のコンディションは最悪だった。
お得意のスリーポントは入らないと思って打たなかったし、動きも悪かった。
それに加えて、あのくそ高いプライドの持ち主。
緑間が不機嫌なのは目に見えて伝わってきた。


「まぁまぁ、真ちゃん。もう少し力抜けって」
「うるさい黙れ」
「・・・ったく」

やれやれ、どうすっかなー。なんて思っていると、ふと体育館入り口に一人の女子生徒が立っているのに気がついた。
でもあの制服はウチのとは違う。っていうことは他校で間違いない。
手元に小さなポーチを持って、きょろきょろと体育館の中に誰かを探してる様に見える。
その少女がぱちっと俺たちを見て、呆れたような顔をした後に手に持っているポーチを小さく振った。

俺たちに視線を向けているので、俺か緑間かのどちら何だろう。
それでも俺は彼女に全く見覚えがなかった。
真ちゃん、知ってる?と聞こうとした瞬間に、隣にいる緑間が声をあげた。

「名前、」
「ん?真ちゃん知り合いなの?」
「あぁ」
「今入っても大丈夫なんですかね、これ」

他校の女子生徒と緑間が友達なんてありえないと思って、関係を追及しようとしたら入り口付近にいた女子生徒が尋ねてきた。
練習中とか気を使ってるんだろうな、なんて礼儀正しい。

「ほら、これ」

そう言って、ぽいっと真ちゃんにポーチを投げつけた女子。
真ちゃんが水色のボーダーの、何ともまぁ可愛らしいポーチを見て固まっている。

「何だ、これは」
「テーピング、昨日切れそうだから買っておいてたのに忘れてんじゃんか」
「、!」

彼女がポーチの中身を説明してる間、真ちゃんがそのポーチからテーピングを出した。
お、なんか安心した顔になった。
・・・二人の会話を聞いて、疑問が大きくなった。
彼女と真ちゃんの関係性は?
最初は真ちゃんのファンの女子かとも思った。
でも、ファンにしては態度が悪い。
態度が悪いっていうか、あまり緊張している様子が伺えない。
この二人は何だっていうんだ?


「あの、ごめん。君は・・・?」
「すいません、自己紹介してませんでしたね。緑間名前です、真太郎の妹です」
「い、妹・・・?」
「?、はい」

え、まじですか。

「あ、真ちゃんの友達の高尾っす」
「兄がお世話になっています」
「名前、やめろ。こいつに世話などなっていないのだよ」
「そんなこと言って、どうせ高尾さんしか友達いないくせに」
「うるさい黙れ」
「高尾さんに感謝した方がいいよ。アンタみたいな変人に良くしてくれるなんてさ」
「名前・・・!」
「はいはい」

確か前に妹がいるのは聞いた。
でもどうせ、緑間の妹なんだし生意気でプライド高くて第二の緑間みたいなやつだと思ってた。
でも目の前にいる現実の緑間の妹は、俺の妄想の緑間の妹とはまるで違う。
真面目そうな外見は似てるけど、他の長いまつげだとか緑色だとか性格だとかは似てなかった。
緑間が変人なことは身内なのに認めているし、兄貴を慕っている様子もない。

・・・・・・そんなことを、目の目で繰り広げられているプチ兄妹喧嘩を聞きながら思った。


「それじゃあ、帰るわ」
「あぁ、すまなかったな」
「別に兄さんの為じゃなくて、兄さんの周りの人の為だよ。どうせ機嫌悪かったんだろ」
「・・・・・・」
「はいはい、さっさと帰りますよー。じゃあね」

くるっと後ろを向いた後に、何か思い出した様子でこちらを振り返った。

「高尾さん、面倒な兄ですがこれからもよろしくお願いします」
「はは、おーう!」
「では」

ニコっと笑ってから、今度こそ体育館から出た彼女を見送った俺たち。
ちらっと緑間を見ると、緑間は何故かこちらを睨んでいた。

「な、何だよ」
「名前のこと、どう思った?」
「え?いやまぁ、真ちゃんと似てないなーって」
「他には?」
「、可愛いなーって」
「ふーん、そうか」

怒られると思ったけど、真ちゃんは何故か喜んでいた。
実の妹が褒められるのは嬉しいことなのかね。
案外にもシスコンなのかシスコンじゃないのか分からなかった。


とりあえず、真ちゃんの妹さんにも頼まれちゃったし、うちのエース様のご機嫌でもとってくるか。
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