「あ」

体育館の整備だなんだで部活が休みになったある日の放課後。
音楽室からピアノの音が聞こえて何となく覗いてみたら、最近緑間と仲がいい苗字の姿。
部活っていう感じじゃなくて一人で弾いてたから多分、自主練習的な何かだろう。

音楽が全く分からない俺でも、彼女の演奏に聞き入ってしまった。
クラシックが好きな緑間が苗字を買うわけだな。

「ん?」

いきなり音楽が止まったと思ったら、さっきの曲を弾いていた張本人の苗字がこちらを見ていた。
あれ、なんか俺盗み聞きしてたみたいで気持ち悪がられるんじゃね?


「高尾、だよな。どうしたんだ?」
「あ、いや。ちょっとピアノの音が聞こえたからさ」
「も、もしかして部活中だったか?わ、悪いな・・・」
「いやいや!そんなんじゃねぇよ。むしろこっちこそごめんね、練習の邪魔しちゃったみたいで」
「いや大丈夫だ。ただの趣味として弾いてただけだから」

初めて俺は苗字と喋ったわけだが。
これまぁ、びっくりな口調。
真ちゃんと仲良しだし、ピアノ弾くし、言い方悪いけどもっと上品な人かと思ってた。
なんか案外、馴染みやすそうな雰囲気。

「じゃあ、用事があるわけじゃないんだな?」
「あぁ」

それじゃあ、お邪魔しました。と言って音楽室前から立ち去ろうとしたとき。

「それなら、こっちに来いよ。そんな所にいないで」

まさかまさかのお誘い。
断る理由なんてないし、帰っても暇だからもちろん俺は音楽室に入った。


「えっと、そういえば何で俺の名前知ってんだ?」
「あぁ、緑間の話の内容は部活関係が多いからな。必然的にレギュラーの名前が出てくる」
「うわー。真ちゃんが俺たちのこと話すとか・・・」
「ふふっ。あ、そういえば私のことは・・・」
「あぁ、知ってるぜ。苗字だろ?真ちゃんが話してるからな。【ピアノが上手くて気の合う女子がいたのだよ】ってな」
「ぷっ、はは!似てんな」
「だろっ?」

すげぇクールで男前な人だと思ったけども、意外とそうでもないらしい。
なんか笑い方とか、楽しそうなときは無邪気な感じがした。


「高尾は緑間とどんな話をするんだ?私は趣味が一緒だから話題はあるが、それ以外はあんまりだ」
「あー、そうだな。いつも俺が一方的に話してるからな。でもやっぱ部活かな」
「そうか。少しはバスケのことも勉強した方がいいのかもな」
「おぉっ!苗字、真ちゃんの話に合わせるんだぁ〜」

一瞬「何言ってるんだコイツ」とでも言いたげな顔で、ぽかんとしていた。
なんか可愛い。
でも一瞬で俺の言ってる意味を把握したらしく、「そんなんじゃない」って否定した。
あー、なんか分かっちまったかも。

「またまたー!真ちゃんのどこに惚れたわけ?顔?性格?」
「別にそういう意味で緑間が好きなわけじゃない。だから安心しろ」

俺が、苗字が緑間好きで興奮してるみたいだろ、その言い方。

「っていうか付き合ってんの?まだ告白してない、もしかして」
「だから違うって!」
「そんな必死になるなよ」
「真実を妄想で塗り固められたら、たまったもんじゃない」

そうやって必死になって誤解解こうとしてるところとか、
少し赤いその顔とか、
なんか可愛いとも思うけど、それ以上に・・・・なんか・・・。

「ごめん、苗字」
「え?」

何に対しての謝罪か分からずに、きょとん顔をしてる苗字の唇に俺のそれを重ねた。


数秒して、唇を離した後にそっと苗字の顔をみると今でもやはり、ぽかんとしていた。
何回見ても可愛い、っていうかぐっとクる。
ギャップ萌えなのかね、これは。

一人干渉に浸っていたら、苗字は赤い顔で下を一回向いてから大声で叫んだ。




「い、いくら緑間が好きだからって私の唇で間接キスしようとするなああああああ!」
「はああああ!?何があった!?」
「ずっと前から思ってたけど、さっきの冷やかしで確信した。高尾、お前緑間のことが好きなんだろ!」
「何でだあああ!」
「だから緑間のこと好きかも知れない私に冷やかして・・・、内心焦ってたんだろ!」
「待て!俺が緑間好きで話を進めるな!」
「そんで挙句の果てには、付き合ったと勘違いして・・・、その私にき、すなんかして・・・」
「違うってーの!何で俺が緑間との間接キス目当てで苗字にキスするんだよ!」
「じゃあ、何でしたんだよ!?他に意味なんてないだろっ!」

何でコイツは「世界中の男はホモ」みたいな常識があるんだ!
普通に照れるとか、嫌がるとか、何でそういうのじゃねぇんだよ!
予想の斜め上とか、そういうレベルじゃねぇよこれ!

「お前ってやっぱ、緑間の友達だわ。変人すぎ」
「何だと!?」

「苗字が可愛くてキスしたくなったから。それじゃ駄目か?」
「あ、ありえない・・・」
「お前の思考回路の方がありえーわ」
「だって・・・、私・・・男っぽいし・・・」

あ、気にしてるんだ。

「わ、たしが・・かわいい、はずないだろ・・・」

そう言う苗字が可愛すぎて、もう一度キスをしてみた。
案の定、今度は殴られた。

でもやっぱ、苗字可愛すぎるって!
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