※緑間・高尾が秀徳二年、夢主が一年


移動教室のときに途中で忘れ物に気づき、友達も戻ってもらうのは少し身が引けるので一人で廊下を歩いていた。
そんな時に同じバスケ部の緑間先輩に声をかけられた。

「苗字、これを頼む」
「えっと、泉真館ですよね」
「あぁ」
「了解です」

大会真っ最中の私たち秀徳バスケ部が次にあたるのは泉真館高校。
緑間先輩がこれを渡してきた意味は、すなわち分析。
もちろん選手である緑間先輩も見たんだろうけど、マネージャーの私も目を通す必要がある。

「高尾だけ見るなよ。きちんコート全範囲の選手を見ておけ」
「わ、私が今までそんなヘマしたことあります!?」
「無意識に目で追っている可能性がある」
「ば、馬鹿言わないで下さい!マネージャー業と私用を混ぜたことなんてありませんよっ」
「あぁ、そうだな」

そう言いながら優しく微笑む緑間先輩は、少なからず私のこと認めて下さっているようだ。
・・・だって本当にそんなことしたことないもん。
多分、それをきちんと分かってる上で緑間先輩がからかっているのだから相当、性質が悪い。


「そういえば、今日のお前と高尾の相性はいいのだよ」
「ま、まじですか・・・!」
「これを機に、気持ちを伝えてみてはどうだ?」
「いやいや!無理ですって!」
「そうか?高尾は苗字に優しいと思うのだが・・・」
「いや、それこそ違いますよ。あの人は誰にでも優しいんですから、」

それに関して私が何度悩んだことか。思い出しただけで悲しくなる。
でも好きな人に対して、そんなことを言ってる自分が一番悲しい。

「そうか?この前、高尾が髪型を変えたお前を褒めていた」
「え?・・・は、え?本当ですか」
「嘘を言ってどうするのだよ」
「うわあああぁぁっ・・・・・・」

顔に熱が集まるのが自分でも分かる。
緑間先輩には気づかれているのだろうけど、実際に赤い顔は見られたくなくて下を向いた。

だからこそ、近くにいる人物に気づかなかった。


「おーい!真ちゃんに名前ちゃーん!こんなとこで何してんのー?」
「高尾・・・」
「うっわ、うっわ、」

手を振りながら、私の大好きなお得意のキラースマイルで駆け寄ってきた高尾先輩。
なんていうタイミングで来たんだ、この人・・・!

「ただ部活のビデオを渡していただけなのだよ」
「あぁ、それね・・・。っていうか名前ちゃん顔真っ赤だけど、どうしたの?」
「い、いえ!別に何でもないですっ!」

緑間先輩に貴方のことでからかわれたなんて言えませんよ!
ていうか、何でこっち見て微笑んでるんですか緑間先輩!

「あ、分かった!真ちゃんに口説かれたんでしょ?」
「何でその結果に辿りついたんだ」
「だって真ちゃんニヤニヤしてるし・・・。名前ちゃん、真ちゃんに何か言われたんでしょー?」

楽しそうにニコニコと私の顔を覗き込む高尾先輩。
まじでやめて下さい!そろそろ私の心臓が爆発しそうなんです!

「何も言われてないですよ、」
「またまたー!ねぇねぇ真ちゃんに何言われたの?【可愛い】とか?【好き】とか?」

うわあああああああん
笑顔でそんなこと言うなああああ!
もう若干、涙目だと思うんですけど私!

「高尾、俺は苗字に何も言ってないのだよ。第一、何で俺が苗字に・・・」
「そ、そうですよ。高尾先輩。何も言われてませんよ」
「まじで?でも名前ちゃん可愛いじゃん」


名前チャン、カワイイ・・・?
ね?と私の肩に腕を回して、またもやニコニコしている高尾先輩。


「うわあああああああああああん」
「あらら、逃げられちゃった」
「お前も性格が悪いのだよ。苗字の気持ちを知っていて・・・」
「だって可愛いじゃない?恥ずかしさのあまりに半泣きになるなんてさ」
「いっそお前が言ってやればいいだろう」
「いやいや。あのクールな名前ちゃんだからこそ、向こうから言わせたくなるっしょ?」
「分からん・・・」
「真ちゃんも名前ちゃんも似てるから分かんないだろーな」




ここで逃げ出した私は二人の会話なんて知る余地もない。
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