「名前っち!名前っち!」
「何ー」
「雑誌読んでないで遊んで欲しいっス」
「後でね」
「名前っち!名前っち!」
「んー」
「今日のご飯は何スか?」
「まだ」
「名前っち!名前っち!」
「うん」
「大好きっス」
「うーん」
「名前っち!名前っち!」
「はーい」
「なんかムラムラしちゃったっス」
「死ね」
「何でそこだけちゃんと答えるんスか!?」

目の前のソファで細く長い脚を組みながら、雑誌を読んでいる俺の彼女。
緑間っちとは違うタイプかも知れないけど、こちらもツンデレ属性。
・・・・・・デレの時なんか見たことないっスけどね!
それでも可愛くてかっこいい人なんスよ。


「名前っち冷たいっスよー。ぶーぶー」
「ぶーぶーとか高校生が口に出して言うな」
「じゃあ俺と遊んで下さい!」
「遊ぶって・・・、犬じゃないんだから」
「名前っちがご主人様なら犬でもいいっスよ」
「こんなワンコ入りません」
「え、●ンコ?」
「・・・・・・」
「じょ、冗談スよ!冗談!だから無言で雑誌を縦に持つのやめて!」

必死に名前っちを制止すると、呆れたかのようにソファに深く座りなおした。
そして今度こそ雑誌を読みいってしまった。


「名前っちー、どっか行きましょうよ」
「・・・・・・」
「嫌なら別に家でもいいっス!」
「・・・・・・」
「名前っちー・・・」
「・・・・・・」

最早これは会話とかそういうレベルではない。
俺が独り言を彼女に向かって言ってるだけだ。
これじゃあ、まるで・・・・・・。


「ふ、ふえぇぇぇ・・・」
「なっ、涼太なんで泣いてるのっ」
「だって、名前っちが無視するからっ・・・!俺だけが名前っちのこと好きみたいじゃないっスか・・・、」
「涼太、」
「こんなの恋人じゃないっスよぉぉぉ、」

うわーんと自分でも幼稚と思うぐらいの大声で泣く。
止めなきゃいけないのは分かってても、名前っちを思うと涙が止まらなかった。
潤む視界の中で心配そうに名前っちがこちらを覗き込んでいた。
彼女にこんな不安そうな顔させるなんて最低っスね、彼氏失格だ・・・俺。


「涼太」
「ぐすっ、ふっ」
「見て」

これと指差す先にはさっきの雑誌。
一緒に見ようなんて誘ってるのかと思うと、また涙が溢れ出した。

「よく見てってば」

名前っちのその声を頼りに、もう一度顔をあげて雑誌を見るとそこには【期待の新人モデル・黄瀬涼太】と大々的に書かれていた。
その横には俺、とインタビュー結果の文章があった。
そのインタビューの内容は・・・・・。

「好きなお店とかブランドとか答えたでしょ?これ見てたんだよ。涼太がどこ行きたいか分かんないから」
「名前っち・・、」
「ごめんね、涼太。だから泣き止んで?」

そう言って、彼女にしては珍しく微笑んできたものだから、益々俺は涙がこぼれた。
そして、勢いよく彼女の胸に飛び込んだ。

「ふわーん!名前っちいいいい!大好きっスううう」
「私も涼太が大好きだよ」
「うあああああん」

モデルさんがそんなに泣いたらダメだよ、という声が頭上からする。
俺が胸に飛び込んだ所為で顔は見えなかったけど、絶対に名前っちは笑っている。

頭に名前っちの手の温もりを感じながら、もう一度彼女にぎゅっと抱きついた。
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