俺の知り合いの中で、変人は二人いる。
一人はお馴染み、俺の相棒の緑間真太郎(こんなこと言ったら否定されること間違いなし)。
いつも、おは朝のラッキーアイテムを持ち歩いてて語尾が「なのだよ」。
まぁ、コイツを変人と思ってる人間は少なくはない。

そして、もう一人は苗字名前。
ただのクラスメイトで、しっかりとした会話をしたことはない。
別に友達もいるし、成績も運動もできるし、顔もいい。
そんなモテる彼女なのに、彼氏はいない。
否、作らない・いらない・必要ない等の理由で本人が断りまくっている。

その理由はただ一つ、モテ女苗字名前は女が好きとのこと。

俺も噂程度しか聞いたことがなかったんだが、先日バスケ部の友人が彼女に告ったらしい。
案の定、断られた理由はやっぱり「私が女が好きなんだ」と。
というわけで、実際本当の話らしく俺の彼女への認識は「変人」と確定した。


・・・ていうか何で俺は変人の話をしていたのだろう、不思議に思った瞬間にその理由を思い出した。
目の前から俺の知人の中の数少ない変人、もとい苗字名前と緑間真太郎が歩いてきたからだ。


「お、真ちゃーん」
「・・・高尾か」
「何で嫌そうな顔するんだよ」
「・・・・・・」
「黙るな!」
「あ、私はここで」
「あぁ」
「え、何々!?何で苗字と真ちゃん親しげなわけ?」
「違いますよ、高尾くん」
「そうだ、馬鹿め」
「ひでぇな、おい!」

俺と緑間の会話が面白かったらしく、苗字はクスクスと手を口元に当てて笑っていた。
うわー、なんか本当に「綺麗」とか「上品」って言葉がぴったり。
こんな人なのに、本当に女が好きなのかね?
・・・・・・同性愛に偏見を持っているわけじゃなくてな。


「それじゃあね、緑間くん高尾くん」

ニコっと笑って俺の横を通り過ぎようとした時に、かすかに香る苗字の匂いにクラっときた。
女子って、こんなに良い匂いがする生物なのか!?
びっくりして、振り返るといつもと変わらない苗字の後ろ姿が見えた。












そして、その苗字の二メートル頭上には落下中の植木鉢。



「っぶねぇ!」
「え?」


苗字が振り返ると同時に、俺が真正面から苗字を抱きしめながら向こうに飛び込んだ。
っと、セーフ!

ガチャンと植木鉢が割れると同時に、苗字は尻餅ついて俺はその上に覆いかぶさってて。
マジで危なかったことは危なかったが、俺の目の前で落下してきたことには感謝。
・・・・・・色々な意味で。


「・・・苗字、大丈夫か?」
「・・・・・・」

苗字は、びっくりしすぎたのか俺をぱちくりと見た後に、割れた植木鉢に目をやった。
そこで状況を理解したのか、もう一度俺を見た。



「高尾くんっ!」
「ん?」

「怖かったのかなー」とか「お礼言われるのかなー」とか、そんな在り来たりなこの後の言葉を待っていると、思いもよらない言葉が苗字の口から飛び出した。









「私を貴方の犬にして下さい!」



「はい?」



苗字を通して見える、少し離れた場所にいる驚きを隠せない真ちゃんとか。
最後の苗字の言葉に何だ何だとばかりに集まってくる周りの生徒とか。

そんなん全く目に入らなかった。
それぐらい今の俺は、誰よりも苗字の言葉を理解できなかった。




「貴方に助けられた、この命!貴方のために使います!

私に何でも言ってください、何でもしてみせます!」



(コイツも、やっぱり紛れもない変人だ)
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