※緑谷視点

昼休みが開始してから大分時間が経過した今。
クラスメイトもほぼ昼食も摂り終え、雑談で時間を潰す者。昼寝に勤しむ者。各々が残り少ない休み時間を有意義に使っていた時間。僕は自席でひとり、ノートとにらめっこしながらいつも通り自習をしていた。

そんな時にいつもの1-Aに聞き馴染みのない、しかし自分にとってはずっと昔から毎日聞いている声が鼓膜を揺らした。

「出久ー!」
「名前ちゃん、」

毎日見てるはずなのに、いつまでも慣れない愛想のいい笑顔を浮かべながら小さく手を振って僕を呼んでいた。
クラスメイトの、特に男子、そして更に特に峰田君と上鳴君の視線をひしひしと感じながら教室のドア付近に立っている幼馴染みに駆け寄る。

「ど、どうしたの?何かあった?」
「あのね、今日出久のおばさん急に実家帰らなくちゃいけなくなったらしくて。明日の朝には帰るらしいから、心配しないでって」
「え?そうなの。でも何で母さん僕に連絡しないで名前ちゃんにしたの?」
「出久が今日スマホ忘れたんでしょ」
「あれ、」

続けて母さんが名前ちゃんのお母さんに連絡を入れ、そこから名前ちゃん、僕という伝言について教えて貰った。
確かに朝、鞄に入れた記憶もない。今日はまだスマホを使ってないため忘れたことにも気付いていなかった。

「わざわざごめんね、名前ちゃんのお母さんにまで迷惑かけて・・・!」
「もー、平気だよ!それに今日出久、夜ご飯どうするの?」
「え、えっとなんか適当に買って帰るよ」
「それならさ、久しぶりにうち来ない?出久が来てくれたらお母さんも喜ぶよ絶対!」

うち、うちとはつまり家だ。名前ちゃんの住んでいる家。
行き慣れてるというのも図々しいけど、僕からしたら昔からよく通っていたし名前ちゃんちのおばさんとも交流がある。こういう時にはよく甘えていたのでそこまで抵抗はないが、どうやらクラスの皆に家という単語とは刺激が強過ぎたらしい。空気が変わった。悪い方に。

「あ、えっと、」
「遠慮しないでいいよ!」
「いや、あの・・・」
「あ、ごめん。もう嫌だったよね、家来るのとか・・・」
「ちちち違うよ!そんなんじゃないよ!行きたいよ!」
「ど、どうしたの出久」

行きたい!と言ってもクラスメイトからの視線が痛いし、行きたくないなんて名前ちゃんが傷付くような嘘が言えるわけもなく。そんな僕の煮えきらない態度に名前ちゃんが盛大な勘違いをしてしまったようだ。
僕が必至になって否定をしようとすると、僕はずっと忘れていた幼馴染みの存在を椅子のガタンという誰かが蹴っ飛ばした様な大きい音で思い出した。
もちろん、目の前で困った様に眉毛を下げている幼馴染みではなく、もう1人の僕達の幼馴染み。

「おい」
「あれ?かっちゃんもいたの?」
「てめぇ目障りなんだよ、さっきから・・・!クソナードとイチャついてんじゃねえぞ!」
「イチャついてなんかないよ!」
「なんだ〜、かっちゃんも私達とイチャイチャしたいの?」
「殺す・・・!!!!」
「かっちゃん爆破させるのやめて!名前ちゃんも!煽るようなこと言うのやめて!」

僕が名前ちゃんから誘われてる光景を黙って指くわえてかっちゃんが見てるわけがなかった。よく考えれば分かることだった。久しぶりに目が90度まで釣り上がっているかっちゃんを見て僕はもう半泣きなのに名前ちゃんはケラケラと笑っている。それを見てかっちゃんはまた額に青筋を浮かべる。
誰か助けて欲しいけど、誰も目が合わない。そりゃあそうだ、短気で普段から物騒なかっちゃんだけど、今日はいつものそれとは違うと皆が感じ取っている。簡単に言うといつものかっちゃんよりも数倍怖い。

かっちゃんが本気で名前ちゃんを爆発させようとする時にふいに名前ちゃんがポンと手を叩き、口を開いた。

「出久は家に来るの遠慮するし、かっちゃんも仲間外れ嫌みたいだし、今日は3人でどっか食べに行こう!」

天使のような笑顔で、ね?と首を傾げられたら思春期の僕達は黙って頷くしかなかった。
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