新世界逃亡計画


「俺は日向順平。奏撫の計画遂行を手伝うメンバーのまとめ役をすることになった。一応、家来の階級としてはメンバーの中では一番上で、いつもは奏撫の護衛を任されている。ま、こいつらとは皆昔からの馴染みだから階級なんて関係ねぇけど」
「俺は伊月。普段は城内の鍵の管理から城外周辺の見回りまで、警備関係の仕事をしている。ハッ!軽微な警備!キタコレ!」
「厳重に警備しろや!」


そう言って日向さんは伊月さんの頭を叩いた。伊月さんは「あだっ!」っとは声を漏らしながら、即座に小さめのノートを取り出してそこに何かをカリカリと書き記していた。


「私は相田リコ。奏撫の身の周りのお世話係…って言っても奏撫は他の金持ち連中みたいに全部やらせたりしないから仕事なんてあってないようなもんだけど」


+++++


火神くんが来た翌日。
火神くんを先頭に、一人の女性と二人の男性が周囲を警戒しつつ入ってきた。最後の一人が重い扉を閉め切ったところで四人は緊張を解くように溜息を零した。


「噂には聞いてたが…本当にこんなところがあるとはなぁ」
「この薄暗い湿気た牢に一人でずっと閉じ込められるなんて…頭おかしくなりそうね」


各々が物珍しそうに辺りを見回していたが、そのうち眼鏡をかけた短髪の男と目が合った。その男は僕を見て「やべ、本来の目的忘れてたわ」そう焦りを見せた後「お前ら始めるぞ!」と全員の視線を集めた。

そして今現在、訳も分からぬまま自己紹介を聞かされている。


「あの…火神くん、いったい…」
「悪い、お前放ったらかして話進めちまったな。結論から言うと…ここにいる四人と城にいる三人の七人で、お前と奏撫をこの国から逃がす!」
「国から…!?」
「ああ。詳しい説明は第一作戦が成功してからだ」
「は、はい…!」
「よし、じゃあ本人もなんとなく状況把握したところで早速始めっか。伊月!」
「はいよ日向!」
「え、あの、うわっ」


待ってましたと、伊月さんは服のポケットから輪で閉じられた鍵の束を取り出す。有に数十はありそうな鍵の中から迷わず一本の錆びた鍵を選ぶと、僕と皆を隔てていた牢の扉の鍵を解錠した。次に僕の枷を火神くんが力技でぶち壊したのだが、それについてはあまりの怪力に恐怖すら感じたのでコメントは控えようと思う。


「奏撫からの話だとある程度の傷は直ぐに治るのよね」
「はい」
「手枷の跡はどれくらいで治るか分かる?」
「そうですね、かなり古くから刻まれ続けているので…一日はかかりそうです」
「そう…傷が見えるのはまずいわね…」
「あ、カントク。オレいいモン持ってるっスよ、リストバンド」
「ナイスよ火神くん!それじゃ、あとは男の子に任せたわよ。私は戻って次の作戦に移っておくから!」
「任せとけ!」


そう言うとカントクさんは周囲に気を配りつつ牢から去っていった。何をすべきか分からずオロオロしている僕を他所に、火神くんたちは運んできた樽の蓋を外した。そこには湯気が立ち上るお湯が入っている。これはいったい何に使う物なのだろう。


「よし、テツヤ!」
「は、はい」
「脱げ!」
「え」
「あーもうめんどくせぇな。ほとんど何も着てねぇ様なもんだしそのまま浸けちまえ、火神」
「ウッス」
「え、あの、待っ!!」


バッシャンと、僕は無様に樽の中に落とされた。何事かと目を開けると目の前で仁王立ちする日向さんが「はーい、目瞑ってないと危ないですよお客さーん」という怪しげな言葉と共に不気味な笑みを浮かべた。


「オラァさっさと洗って出るぞテメェらぁ!」
「日向さんどうしたんすか!?」
「時々スイッチ入ってこうなるから気にすんな」
「は、はぁ…」


数分後、日向さんたちの手により僕は見違えるほど綺麗に身なりを整えていた。その姿はまるでぼくが忌み嫌ってきたアイツラのようだ。


「よし、こんなもんかな。この制服の階級はこの城内には五万といる。これなら紛れ込めるな」
「俺も着いていくし突っかかってくる奴もいないだろ」
「なんだ日向、階級自慢か?」
「バッ、ちっげぇよ!!」
「冗談冗談」
「ったく、馬鹿言ってねぇで行くぞ!」
「おぅ!」


緊張した面持ちで重い扉を静かに開く。まずは伊月さんが表へ出て周囲を確認し、続いて日向さん、僕、火神くんの順で牢を出た。
久しぶりの広い視界、カラッと乾いた爽やかな空気、身をかすり吹き抜ける風。全てが新鮮で、でもとても懐かしく、不思議な感覚だ。


「あ、そうだテツヤ、これ」
「先ほどお話されていたリストバンド、というやつですか?」
「ああ、手首にはめとけ。傷が隠れるようにな」
「ありがとうございます」


火神くんから渡された二つの黒いリストバンドを両手首にはめる。なんだか違和感があるが嫌な気分ではない。


「大丈夫。今周辺には誰もいないよ」
「よし、じゃあ一気に奏撫んとこまで行くぞ!」


僕は力強く頷いた。

20131205
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -