21.5 [ 1/1 ]


ホームステイの二週間はあっという間に過ぎてしまい、都遥との生活も残すところ明日の夕方まで。得意料理がカップラーメンの都遥に代わって料理はオレの担当だったけど、今日は最後だからと二人でキッチンに立った。隣で白菜にピューラーを向ける都遥には苦笑したけど、こういうのも楽しくていいかな。

出来上がった鍋を二人でつついて、唐突に新婚みたいだね、なんて言うと都遥は茹で蛸みたいに顔を赤くして照れた。そんな顔、オレ以外の誰にも見せないでほしい。言ってしまいたかったけど、きっと都遥は意味を理解できないだろうから。



「都遥、今日はオレが借りてるベッドで一緒に寝よう」
「え、いいんですか!?客間のベッドって何故かキングサイズなんで一度使ってみたかったんです」
「正直この二週間落ち着かなかった」
「あはは、ですよねー」


都遥のご両親は相当変わってる。自分の一人娘を置いて海外に旅行、加えて昔からの付き合いとはいえそこに男を滞在させる…。オレなら絶対に考えられない。信頼されてる事は嬉しいけど、男と思われてないとするとかなり複雑だ。…まぁ本人から「彼女出来たら紹介して」という残酷な言葉をもらってるから今更だけど。

「し、失礼します…!」
「どうぞ」


お風呂から上がった都遥はほんのり全身が火照っていて、ふわりといい匂いがした。掛布団をめくり枕に腕を伸ばすと、都遥はごくりと大げさに息を飲んでから向かい合うようにそっとベッドに横になった。緊張しているのか、肩に力が入ってるのが分かる。昔はよくこうやって昼寝したりしてたな。夕方おばさんに起こされた時には枕にしてた腕がビリビリと痺れ肘は固まって曲がらない…でも目覚めた都遥が毎回「たつやくんのうでまくらだいすき!」って笑うから、引っ越すまでやめられなかった。


「重くないですか?大丈夫ですか?むしろ私が腕まくらしましょうか!?」
「平気…というより頭ちょっと浮かしてるだろ。力抜いて」
「バレてましたか…」
「バレバレです」


布団をかけ直し髪を撫でると、力が抜けて腕にずしりと重心がかかった。懐かしい感覚に浸っていると都遥が恥ずかしそうに目線を下げた。


「よくこうやって私を寝かしつけてくれましたよね」
「覚えてたんだ」
「もちろん…辰也さん」
「なに?」
「だ、抱きついてもいいですか…!」
「え」
「ちょっともう目の前の辰也さんを我慢出来ません!!」
「う、うーん…自分で誘っといてなんだけどさすがにそれは危ないような…」
「危ない?」
「…なんでもない。いいよ」


ぱぁっと花を周囲に飛ばした都遥の手がそろそろと背中に伸びてきて、優しく抱き締められた。脇の辺りに都遥の頭が来て、さっきより数段近くなった距離に心臓が跳ねる。


「都遥…?も、もう少し離れ…」
「すー…すー…」
「…」


二秒で寝れる、都遥の特技。こんなところまで変わってない。嬉しいような…く、苦しいような…。寝息を立てる都遥を抱き返す勇気もなく、オレはただ腕をダランと伸ばすしかなかった。朝まで耐えられるだろうか、蛇の生殺しだ、寝られるわけがない、なんで誘ったんだオレは…。寝息だけが響く暗闇でいろいろ考えたが、この状況を打開する案なんてものはなく、とにかく時間が経つのを待つことにした。


「Please keep holding my hands.」


囁きに僅かな反応を見せた都遥だったが起こしたわけではなさそうだ。ホッと一息吐き最後にもう一度髪を撫でて、オレは微塵もない睡魔を引き寄せようと静かに目を閉じた。










21.5:どうかこの手を離さないで



20121216 玄米
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