02.5 [ 2/2 ]


「調子のんなこのクソモデル(笑)があああああああああああああああああああ」
「ええええええええ!?」


パパッとはたかれた自分の両手に気を取られていると、お腹にスゴい衝撃を受け、その反動で床に尻餅をついた。どうやら蹴り飛ばされたようだ。


「っ…何するんスか!」
「自業自得だバカっ!!」


片手を腰にあて、仁王立ちしながらもう片方の手を俺に伸ばすその姿は異様で、立ち上がらせようとしてると気付くのに時間がかかった。…自分で蹴り飛ばして転かしといて、手差し伸べるか普通!

やっぱ変わってるわ、桐原サン。


「ま、なんていうかさ。黄瀬くんもモデルやってるし、有名人だからいろいろ表面上は繕ったりしなきゃなんだろうけどさ…」


立ち上がった俺に桐原サンが若干申し訳なさそうに告げる言葉を聞いていたら、視界の端から茶色い何かが飛んでくるのが見えた。


「いってぇ!!!!!」
「黄瀬くん!?」


なんだ?と思う暇もなく今日二度目の激しい衝撃を受ける。今度は頭だ。頭に当たって気道を変え床に落ちたそれを目で追う。


「バスケットボール?」
「ワリーワリー」


手を顔の前で立てながら走って来たのは、やたら黒い男。


「って…モデルで有名な黄瀬クンじゃん!」
「大輝!あんたモデルさんの頭になんてことを…!」
「…自分はさっき蹴り飛ばしたくせに」
「あ゛?」
「!!なんでもないっス!」


大輝と呼ばれたその男の胸を肘で小突いた桐原サンにボソッとつぶやくと、普段からは想像出来ない悪魔のような顔で凄まれた。俺にあ゛?とか言う女なんて初めてだ。


「んだよ、都遥。お前またなんかやらかしたのか」
「人をトラブルメーカーみたいに言うな!」
「黄瀬クンも気を付けた方がいいぜ、こいつ凶暴だから」
「そうみたいッスね」
「貴様ら…!!てか大輝練習戻んなくていいの?監督こっち睨んでない?」
「っべ…ボールサンキュ、じゃなっ」


桐原サンと親しげなそいつは俺からボールを受け取り来た道を帰った。


「そういえば…さっき何言おうとしてたんスか」
「あー…誰かさんのせいで雰囲気ブチ壊れたけど…まぁなんて言うか…悪な黄瀬くんとなら仲良くしてあげてもいいってこと!」
「はぁ?なんスかそれ」


悪な俺って何?
ほんと意味分かんねぇ。

…こんなことで笑ってる自分も、意味分かんねぇ。


「あ、あとさ」
「なに?」
「黄瀬くんが簡単に追い付けないような人って案外身近にいるかもよ」


なんで俺が考えてたこと分かるんだ。つか、そんな奴…


「ハッ、本当にいるんなら見てみたいッスね」
「じゃあ決まり!」
「え、は、ちょっ」


楽しそうに笑って腕を引く桐原サンに連れて来られたのは体育館。バスケか…まだやったこと…そーいや…ウチってバスケかなり強いって聞いたことあるな。

あ、さっきのダイキクン…すっ…すっげっ!!!!

5対5をしていたその体育館で一人だけ完璧にレベルが違う奴がいた。一人、また一人とかわして、ゴール下のDFもいないかの如くバッと飛んでゴールを決める。あの速さであの動き…再現出来るか!?ムリ…いや…頑張れば…やっべいたよ、すごい奴…!!

この先俺がどんなに頑張っても追いつけないかもしれない…けどだからいい!この人とバスケがしてみたい…!

そんでいつか…

いつか…

隣にいる桐原サンに目をやると、視線に気づいて俺に笑顔を向けた。

あー…今までのやり取り全部撤回。作戦とかアピールとか脅しとか、きっとそんなことを考える子じゃない。純粋で、裏表のない女の子なんだ。…蹴ったり凄んだり、変だとは思うけど。俺も桐原サンに笑顔を返して、体育館に一歩踏み出した。


「バスケ部入れて…入れてくれないっスか!?」


桐原サンは小さくっよし!とガッツポーズしていた。



20120828 玄米
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