花宮 [ 1/3 ]


「おい、飲みもん」
「はいどうぞー」
「お前クズだな。んだよ微糖って。ブラックに決まってんだろーが買い直してこいブス」
「間違えた…パッケージ似てるんだもんな、行ってきまーす」
「うぜぇな黙って行け」
「はいはーい」


今度は間違えないように、ブラックの文字を指差し確認してボタンを押した。ガコンと落ちてきたホットコーヒーを掴んでもう一度パッケージを確認、よし、ちゃんとブラックだ。冷めるとまた怒られるから自分の冷たい手で冷やしてしまわないようにカイロで包んで屋上まで早足で戻る。


「お待たせ、ホットコーヒーのブラックでございます」


笑顔で丁寧に差し出すと、花宮くんは心底胸くそ悪そうな顔をしてバシッと缶を奪い取った。花宮くんは隣に座ることを酷く嫌がるので、十歩くらい離れたところに腰を下ろす。花宮くんはコーヒーをすすりながら携帯をいじっている。それを横目でちらりと確認し、私はお弁当を食べる準備だけ整えてその時を待った。五分程して携帯を閉まって
・・・・・・・・・
食事を始めた雰囲気を感じ取って、静かに手を合わせた。先に食事をしてはいけないというのは、花宮くんと付き合い初めて一番に学んだこと。トイレに行くと行って席を立った花宮くんを待たずに食事をしていたら帰ってきた花宮くんにお弁当箱をひっくり返された。「誰が先に食っていいっつった?」舌打ちも添えられた発言は当時の私には衝撃で、反射的に涙が出たのは致し方無かったと思う。


「おい、戻るぞ」
「ふぐ…ふぁい!」


なんで男の子ってこんなにご飯食べるの早いの。いつも食べきる前にお開きになってしまう。おかげで午後の授業中にお腹の虫が悲鳴をあげることは今や私の代名詞になっている。


「名物夫婦が帰ってきたな。どうだった花宮、姓の愛妻弁当は」
「今日も美味しかったよ、皆にも分けてあげたいぐらいだ。名、ありがとな」
「ううん、真くんのために作るの楽しいから」
「相変わらず理想のほのぼのカップルだなお前らはー!」


ニコニコ笑うその顔の裏で、花宮くんが考えてることなんて手に取るように分かる。「うぜぇな気安く触んじゃねえよ雑魚が消えろ」とかそんな感じだろう。よくそこまで自分を偽れるなと感心したけれど、私も“真くん”なんて仲良く見せるための仮面を被って皆を欺いているわけで。笑顔を崩さないまま、腹の中で所詮は同じ穴のムジナかとせせら笑った。


「あ、そうだ名。放課後二人で映画でも観に行こうか」
「いいね、私見たかった恋愛ものがあるの」
「何言ってるんだよ、映画はアクションに決まってるだろ」
「えー」
「はいはいデートの内容は帰りに決めてくれ〜」
「悪い悪い、お前は彼女いないから帰りは一人だけど大丈夫か?」
「花宮お前なぁ!」
「はは、冗談だって」


うーん…今の“冗談”は判断が難しい。本心を我慢仕切れなくて言ったのか、それともこんな茶目っ気のある冗談も言う堅くない人アピールか…。


「おい聞いてんのか」
「あ、ごめん何?」
「チッ…帰りは校門だ。知り合いが来たときの対応は分かってんだろうな、余計な事言ったら殺す」
「心得てまーす」


放課後、職員室に用があるらしい花宮くんは「めんどくせぇ…」と愚痴っていたが、これも好感度上昇のため。表向きに優等生な花宮くんに頼み事をする先生は多く、どんな仕事もきちんとこなすので信頼度は高い。その優等生な部分と、裏のひねくれすぎた性格は比例していると言えば彼がどれだけ凄い人間なのか、少しは伝わるだろうか。

花宮くんの尊敬すべきところは一切ボロを出さない事だ。自分に有益な人間に対しての接し方が徹底している。花宮くんの本性を知っているのは極少数だけど、見事に変人ばかりで変人には変人が集まるのかな、なんて思った。花宮くんが私に本性を明かしているということは、つまり、まぁ、そういうことなんだろうけど。
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