赤司 [ 1/4 ]


「小太郎先輩、準備はいいですか?」
「オッケー!」
「はぁ…どうなっても知らないわよ」


洛山高校男子寮は、玄関に入ってすぐフリースペースがある。少し広めのそこには丸テーブルとイスがいくつかあるのだけれど、まあ皆めったに使ってない。だって、ねぇ、普通は自室に行くでしょ。


「小太郎先輩、準備はいいですか?」
「オッケー!」
「はぁ…どうなっても知らないわよ」


洛山高校男子寮は、玄関に入ってすぐフリースペースがある。少し広めのそこには丸テーブルとイスがいくつかあるのだけれど、まあ皆めったに使ってない。だって、ねぇ、普通は自室に行くでしょ。だから大人数での話し合いとか以外で使われることがない。女子である私が何故知っているのか、私が生活している女子寮も全く同じ造りになっているからだ。男子寮玄関で、ある人を待ち構える。私の隣には同じ構えの小太郎先輩、玲央先輩は少し離れたテーブルで優雅にお紅茶をおすすりになっておられるでおわす。


「だいたい赤司くんは偉そう度が大気圏を突き抜けてるんですよ!先輩に向かって呼び捨て、タメ口、おまけに1年キャプテン!?調子のんなってんだよべらぼうめ!」
「征ちゃんに対してそんな口がきける名ちゃんも名ちゃんだけどね」
「そうやって甘やかすからダメなんですよ!これは後輩としてのけじめです!後輩の始末は後輩がつけてやりますよォ!」
「小太郎いるけど」
「細かいことは気にしなーい!」


玄関でこの姿勢を保ち早数十分。そろそろ腕が悲鳴をあげはじめている。ちらりと小太郎先輩を見ると余裕そうに「ねぇコレ食べていい?見てたら腹へってきた!」なんて笑顔で言われた。いいわけねえだろ。なんのためにこんな辛い思いしてると思ってんだこの猫目は!舌打ちしそうになるのを寸でで止め「今は我慢してください…!」と唸るように訴えた。


「お、噂をすれば…」
「しーっ!」


ドア越しに会話する声が聞こえ、聞き耳をたて小太郎先輩と顔を見合わせ頷く。待ちわびていた人物である確信を得た私達は構えに一層の気合いを入れ、その時を待った。


「…だから明日は」
「誕生日おめで…とぉぉぉぉ!!!」
「ハッピーバース…ッッデー!!!」
「ぶっ」
「ちょっ、小太郎先輩“誕生日おめでとう”でって言ったじゃないですか!」
「あり?そだっけ?ごめんごめん」
「もうしっかりしてくださいよ!」
「お前達…」
「「ハッ…!」」


べしゃっ!と四つ鈍い音がして、言い合っていた小太郎先輩と鏡みたいに顔だけそろーり同じ方に動かして驚愕した。いや、これは確かに自分が望んだ事ではあるのだけれど、まさかこの人を標的にして上手くいくなんて毛ほども思ってなかったから。だから赤司くんが、生クリームたっぷりのパイを四つとも全身に受け入れているこの光景を…、笑わずにはいられなかった。


「あははは!!!あの赤司くんが!あの赤司くんが真っ白になってるぅ!ざまぁ〜みろ〜あーっはっはっはっやりましたね小太郎先輩!…あれ小太郎先輩どこ行った?」
「部屋に走って帰ったわよ」
「えっ嘘!?」
「名…」
「ひっ…!」
「………来い」
「は、はい」


ほどよい固さの生クリームをひっつけた真っ白な顔からでも、赤と黄の切れ長の目は確認できた。逆に怖い…!だって目だけって…これなに?なんて拷問ですかこれ。いや私のせいなのは最もなんですけど。怖すぎる…!

スッと靴を脱ぎ靴箱にしまった赤司くんがスタスタと歩きだして、私は黙ってついていくしかなかった。


「はー…名ちゃん、終わったわね。アンタが先に入ってきてれば全て丸く収まったのに」
「んだよそれ…ゲフーッ」
「ちょっ汚いわね!」
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テーマ「人外ファンタジー」
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