高尾 [ 1/3 ]


「ね〜ぇ、名ちゃ〜ん」
「甘えた声出さないで気持ち悪い」
「ひっで!」


朝からしつこく付きまとわれてさすがに鬱陶しさがピークになりつつある放課後。高尾くんの馴れ馴れしさとしつこさは今に始まったわけではないけれど、今日は特に酷い。
期末テストに向けて必死に居残り勉強する私に、高尾くんは前の席の椅子に私と向かい合うよう後ろ向きに座って背もたれに頬杖をつき小首を傾げ寂しげな瞳で私を見上げる。いつだったかクラスの女子が「高尾くんってあざと可愛いよね!」と言っていたがこういう仕草をさすのだろうか…。そうだとしたら一つ訂正したい、断じて可愛くはない。


「名ちゃんってば〜」
「うるさい、気が散るって言ってるでしょ。寒いんだし、早く帰ったら?」
「オレの心配してくれるなんて優しいね。名ちゃんあっためて?」
「死ね」


本当に何を考えてるんだこの人は。さっきからしきりに手にハーッと息をかけている目の前の高尾くんには自分が名門秀徳高校バスケ部の1年レギュラーだという自覚はあるのか。こんなことをしていて風邪でも引いたらどうするんだ。重くため息をはいて自分のカバンに手を突っ込み、乱暴に引っ張り出したそれを投げつけた。


「ぶっ!…何コレ」
「ストール、見ればわかるでしょ。気休めにしかならないけど帰らないんなら巻いておいて」
「えっオレここにいていいの?」
「散々帰れって言っても帰らないのはどこのどいつだ」
「まぁまぁ、でも名ちゃんは大丈夫?寒くねぇの?」
「体温高いし平気。高尾くんに風邪引かれる方が困る」
「女子はスカートなのに強ぇなあ…オレ絶対無理だわ。…あ、コレ名ちゃんの匂いする」
「おい変態、返せ。だいたい私の匂いなんか分かんないでしょ」
「分かるよ、好きな子の匂いだもん」


ストールに鼻を寄せ嬉しそうに笑うこの変態は、時たまこういう反応に困る事を言う。

初めて言われたのは教室移動の途中で、高尾くんが落とした教科書を拾って渡したら「さんきゅ!オレ姓さんのこと好きだから覚えといて!」なんてまるで挨拶みたいに言われた。驚くには驚いたけど、高尾くんってなんか軽そうだし彼にとっては挨拶の一貫なのかな。と気に止めずにいたら、二人でゴミ出しに行った時「なんで返事くんないの?」と顔を覗き込まれた。どこの世界にあんなユルい告白を告白と受け取る女の子がいるんだ。いるなら顔が見てみたい。


「え、あ、アレ告白だったんだ。私と高尾くん別に仲良くないし違うと思って…すっかり忘れてた、ゴメン」
「…ふーん」


悪びれた空気を一切出さずに淡々と述べたこの言葉が火に油を注いだのか、その日からやたらと高尾くんが私について回るようになった。急に名前呼びになるし、移動はずっと一緒だし、休憩時間もご飯も何もかも付きまとわれている。それまで一緒に過ごしてた友達は、高尾くんに上手く丸め込まれたそうで「協力することにしたから!」と離れていった。


「名ちゃん名ちゃん」
「うるさい、本当に集中出来ないから」
「お願い!これが最後、もう喋んねぇから!」
「…何?」
「今日オレの誕生日だって言っただろ?」
「それで」
「プレゼントちょーだい?」
「は?」
「プレゼント♪」
「………はい」
「消しかす!!!」


机の端に寄せていた黒い無数のそれを手に乗せて贈呈すると、高尾くんは勢いよくゴミ箱まで走って叩きつけた。床にでなくゴミ箱まで行くとは、案外きちんとしているのかもしれない。


「約束だから黙ってよ」
「消しかすで黙んなきゃなんないとかいやだ!!」
「だって何が欲しいかは聞いてないし」
「じゃあ何、言ったらくれんの?」
「お金はダメだからね」
「オレは一体何だと思われてんだ、金とか言わねぇから!オレの願いはただ一つ!」
「何?」
「名ちゃんが欲しい!!」
「死ね」
「うん、そう返されると思った」
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