降旗 [ 1/3 ]


「降旗くんおはよー!」
「おー姓、はよ」
「それとっ誕生日おめでとーーーー!!!」
「ちょっ、声デカッ…!」


学校の玄関で靴箱から上履きを取った降旗くんは大げさに肩をびくっと揺らして、上履きを床に落とした。汗をダラダラ流して辺りの様子を伺う様は、とてもWC準決勝でPGとして試合に出ていたとは思えなくて笑える。


「みなさーん、今日はここにいる降旗光樹くんの誕生日でーす。祝ってあげてくださーい!!」
「なっ、姓!?」


降旗くんの腕を掴んで遠くにいる人にも見えるようにその腕を大きく振った。相変わらず降旗くんはあわあわと声にならない声をあげ必死に腕を下ろそうとするが私の両腕がそれを許さない。朝一の玄関での叫びで、あっという間に人が集まってきた。私たち二人を囲むようにギャラリーが出来て、どこかしこから「あの子今日誕生日らしいよ」と聞こえてくる。私はニヤリと笑って降旗くんの手を離した。


「降旗くんの今日の星座占いの順位は一位!!金運、仕事運、恋愛運、総合運、全てにおいて絶好調なのです!」
「お、おい…ななな何緑間みたいな事言ってんだよ!それより姓どうすんだこの状況…!」
「まぁまぁいいから」


心なしかガタガタと震える降旗くんは見てて本当に面白い。わざとらしくオホン、と咳をひとつ。大きく息を吸って両手を広げた。


「開運おまじないは、外国のコインを1枚きれいに磨いた後小さな袋に入れて持ち歩くこと。このために私は外国人旅行客に飴とコインを交換してもらってきました!」
「おお〜!!」


ギャラリーから歓声と拍手が起こる。この学校のこういうノリのいいところ、大好き。私は演説に近いそれを続けた。


「そして一日かけてコインを磨き上げこの袋にに収めてます。これで更に運気は上昇したはず!更に更に!!身近な人と身体を動かすことにツキがあると出ている!彼は全国まで行ったバスケ部の選手。私は今日だけバスケ部の練習に参加させていただくことになりました!!」
「は!?なんだよそれ、知らないぞ!」
「今言いました!」


先ほどよりも大きくなった歓声に満足気に頷いて、歓声をなだめようと片手をかざした。さて、本題はここからだ。


「早くそのコインの袋やれよー。本人恥ずかしくて泣きそうになってるぞー」


知らない男子がどこからかそう叫んで、玄関付近は笑いに包まれた。私は人差し指を立て、チッチッチッと声とともに指を揺らす。


「勘違いしてはいけないぞ皆のものおおお!これは降旗くんのためにつくったのではなーい!私のためのものだーハッハッハッ!!」


完全に置いていかれているギャラリーにまたニヤリと笑いかけて、袋をギュッと握り締めた。


「つまり、私と降旗くんは同じ星座なのだ!ということは私も絶好調であることに変わりない。だから今日の私は最強。こんな大勢の前で恥をかくこともない」
「もうかいてるよ…」


降旗くん、私の耳は都合の悪い事は一切聞こえないハイスペックイアーだから聞こえないよ。


「と、いうことで。降旗くんに言いたいことがあります」
「え?」
「好きです、私と付き合って下さい」
「…」
「お、おおおおおおおおおおお!!」


この辺はさすが高校生。今のひとことで空気が一気に熱くなったのが伝わった。ここにいる全員が降旗くんの一挙手一投足に目を見張る。当の降旗くんは「なっ」「まっ」「ちょっ」「えっ」を延々繰り返して、一向に返事を言う気配がない。しびれを切らした男子の一人が「男らしく堂々と返事しろ!」と声を荒げ、みんな続けと返事をせかした。
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