黒子 [ 3/4 ]


「ごめん!!」
「すみませんでした」
「お前らなぁ…」


あの後、帰ろうとして「あれ、何か忘れてるような…?」と首を傾げた姓さんと記憶を遡って、二人同時に顔を見合わせた。


「火神くん!!」


姓さんが電話をかけて居場所を聞くと、もう自宅だ!とこっちにまで怒号が飛んで、スピーカーは完全に音割れを起こした。そして今僕達は火神くんの家で血管がキレそうな彼にこってり絞られている。


「黒子!なんだったんだよあれは!急に走り去りやがって」
「僕も分かりません。何ですかあれは」
「こっちが聞いてんだよ!…あーもうその事についてはいい。…姓、黒子来ちまったけどどうすんだ」
「ど、どうしようか…」
「?」


言葉は二人で交わしながら目線はこちらに向いている。その妙な空気に、何も知らない僕はただ二人を交互に見るしかなかった。


「か、火神くんやってくれてたり…」
「…はぁー。そう言うだろうと思って姓が持ってきた本見てやっといた」
「うおぉぉぉ!!バ火神様ああああああああ」
「なんつった!?」
「?」


ますます混乱する僕を他所に、二人はキッチンへで何やらこそこそと密談中。火神くんだけひょいっと現れ部屋の電気を消すと、姓さんがある歌を口ずさみながら、ゆらゆらと蝋燭の灯りが揺れるケーキをキッチンからテーブルへと運んできた。


「これは…」
「ハッピバースデイディーア黒子くーん。ハッピバースデイ、トゥーユー!」
「あ、あの…?」
「本当はね、今日火神くんの家でこの誕生日ケーキを作る予定だったんだ。私の家のオーブンが壊れちゃって、火神くんがオレん家ので良ければって代わりに料理を教える条件で申し出てくれたの。」
「結局オレが全部やったから味の保証はねぇけどな」
「本当にごめん!料理は日を改めてってことで一つ!」
「…そうだったんですか、ありがとうございます」


ふぅっと蝋燭の火を吹き消して再び部屋の電気をつけると、ケーキはキレイにデコレーションされていた。火神くんはパティシエにでもなった方がいいんじゃないだろうか。





―――――


ケーキをなんとかたいらげ、火神くんの家を出る。家まで送りますと言ったら姓さんは何度も悪いからと断ったけど、強引に押しきって腕を引けば素直に従ってくれた。手を繋いで歩いていると、やけに姓さんが大人しいので理由を尋ねたら「なんか…て、照れ…る」とうつ向きながら蚊の鳴くような声で呟く。普段うるさい姓さんが縮こまっているものだから次第に僕もそんな風に思い始めてしまって、二人してこの気まずい雰囲気に苦笑いを浮かべた。


「お家、着いちゃいましたね」
「…うん。ありがとね、黒子くん」
「それ、嫌です」
「それ?」
「呼びかたです」
「ああ!そだね、テツヤくん」
「まぁ、悪くないですかね」
「そんな言い方しちゃって〜。照れ隠し?」
「そうですね、そう取ってもらって構いませんよ」
「え!?」
「聞いといてなんですかその反応は」
「す、素直なテツヤくんが刺激的です。…あ!ねぇ私もお願いしていい?」
「なんですか?」
「私も名前で呼んで欲しいな〜なんて」
「そんなことですか。じゃあ…名」
「おおお、破壊力抜ぐ…んむっ」


君は、ムードとかないんですか。破壊力とか正直、君の方が爆発的に高いことに気づいて欲しいですね。
首裏に手をやり引き寄せた唇に、自分のそれを重ねた。甘くて甘くて溶けてしまいそうなこの味はケーキの生クリームなのか、それとも名なのか。それを確かめる機会はこれからいくらでもあるだろうから、今日はこれくらいで許してやろう。
顔を真っ赤にする名を見つめたまま、僕は見せつけるように自分の唇の端を舐めた。










Happy Birthday project!


(圧倒的なエロさ…!)
(さっさと家入らないと襲いますよ)

20130228 →あとがき
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