赤司 [ 3/4 ]


「お待たせ致しました!お着替えお持ちしました!!…あれ?」


脱衣場の扉を開けてビシッと敬礼したが、着替えを望まれていたお方の姿は見えなかった。かごには制服が入っている。まさか寮内を裸で歩き回って…!?…こんな事を言ったらいよいよ殺されかねないな、うん。意思表明に強く頷いていると、くぐもった声で名前を呼ばれた。浴室から発せられたのは容易に推測できたので、そちらへ足を向けた。


「赤司くん、着替え持って来たよ、かごに置いてるから!ってことで私はこれにて」
「帰すと思うか?」
「思いません」
「入ってこい」
「はい?」
「名は何もかも二回言われないと理解できないのかな?」
「いいえ!聞こえました、バッチリ!」


そりゃ聞こえたけどこの人とんでもないこと言ったよね。女の私に男子寮の浴室へ入れと?バカじゃないの?脱衣場に入るだけでも心臓はちきれもんなのに更に浴室に入れとか残虐非道だよマジで。脱衣場で冷や汗を流しているわけにもいかないので、意を決して靴下を脱ぎ捨て浴室へと踏み込んだ。もわもわと立ち込める湯気の奥で揺れるシルエットに近づく。赤司くんをしっかり目で捉えられる位置まで来た時には制服が水蒸気で少ししめっていて、これが既に罰だよ!と心の中で叫んだ。


「えと…なんでございましょうか?」
「洗え」
「え?」
「またか」
「わあああごめんなさいごめんなさいつい癖で…!でもなんで?」
「名がしたことをオレが片付けるのは不快だ」
「…そうですか」


次なる命令は洗えですって。来い、早く、入れ、洗え。この人王様か何かですか?ドンと椅子に座り腕を組む赤司くんには最早引くしかない。だがここでまたやりたくない的な態度を取っても最終的には従わされるんだ。なら素直に言うこと聞いてさっさと女子寮に帰るのが得策。お母さん、私はまた一つ学びました。まずは頭を洗おうと、シャワーの栓を捻り手にお湯をかけて温度を調節する。なんだか美容師にでもなった気がして気分がノってきた。赤い髪にまんべんなくお湯をかけながら熱くないですか〜?と聞いたら黙ってやれと一蹴され、私の美容師気分は幕を閉じた。

一通り髪を洗い終え、浴室を出ようとしたら当たり前のように「顔もだよ?」と言われた。だけど、顔のクリームなんてこの蒸気でほとんど溶けてるし、顔くらい自分で洗ってくださいよ。それでもやっぱり従うのは赤司くんの目が怖かったからとかそんなんじゃない。


「あーあ、小太郎先輩の言う通り食べとけば良かったかなー」
「何を?」
「生クリーム。こんなことになるんならそうした方が良かったと反省しております」
「そうか、なら食べるか?」
「えっ」


また性懲りもなく聞き返した私は、赤司くんが向ける蔑んだ目にまたやってしまったと後悔した。謝ろうとしたけど言葉が出なかったのは、赤司くんが上唇にわずかに残ったクリームを舐めあげ、私の後頭部をがしりと掴んで引き寄せお互いの唇を当てたからだ。赤司くんの唇からぬるりと渡ってきたのはほんのり甘さが残るクリームで、紛れもなく自分が作ったものだったのに、された行為が衝撃的で最早それどころではなかった。


「感想は?」
「…水分含んじゃってあんまり美味しくない」
「それは残念」


金輪際赤司くんの誕生日にサプライズなんてしない。ニヤニヤしている赤司くんを睨み付けて、口元を拭った。










Happy Birthday Project!


(はい、プレゼント用のケーキ)
(今度はこれを口移ししてほしいのか?)
(今度はって前も頼んでないから!)

20121220 →あとがき
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